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品質マニュアルの作り方1994年対応版(第11回)

平林良人「品質マニュアルの作り方1994年対応版」アーカイブ 第11回

このシリーズでは平林良人の今までの著作(共著を含む)のアーカイブをお届けします。今回は「品質マニュアルの作り方1994年対応版」全200ページです。
先に1987年版対応の「品質マニュアルの作り方」をお届けしましたが、今回はISO規格の改訂に伴い、全面的に1994年版規格に合わせた内容に更新したアーカイブです。

条項 4.8 Product identification and traceability
(製品の識別及びトレーサビリティ)

  • 【ポイント】
    • ① 製造から据付けにいたるまでの全段階において,製品の識別をする手順を文書化する。
    • ② 個々の製品またはロットに固有の識別標識をつけ,トレーサビリティを確保する。
  • 【背景】
    • ① 製品の履歴を製造段階からはっきりとさせておき,完成品が顧客または市場に納入されてからも,個々の製品識別ができるように工夫しておく。
    • ② 製造物責任(PL)問題が社会的に取り上げられるようになった今日,この製品識別とトレーサビリティは,万が一の不測の事態にそなえての事前予防,保険の意味をも持つ。
  • 【企業内実施例】
    • ① 製品の識別に関しての基準(ロットの大きさ,表示方法など)がある。
    • ② ロットの定義がはっきりしている。
    • ③ 製造番号,製造月,ロット番号などを製品に表示し,市場で品質問題が発生した場合に,製品に使用した部品・材料,加工条件などがすぐ追跡できるように定められた基準がある。
    • ④トレーサビリティに関しての記録が保管されている(過去に作られた製品について履歴が追跡できる)。
  • 【審査時の質問事項】
    • ① ロットの定義を聞かせてください。
    • ② 製品識別の基準がありますか? あれば説明してください。
    • ③ トレーサビリティの記録を見せてください。
    • →実際に出荷から製造まで遡って各工程に履歴が残っているか確認してみる。
  • 【不適合】
    • ①(指定要求事項であり記録保管しなければならないにもかかわらず)トレーサビリティの記録がない。
    • 〔注〕トレーサビリティをとる必要のあるものは品質に影響のあるものだけでよい。
    • ② 製品の識別についての基準がない,はっきりしない。

条項 4.9 Process control(工程管理)

  • 【ポイント】
    • ① 製造工程から据付工程までの工程を管理する方法を定め,実施する。
    • これには次のものを含む。
      • ・製造,据付け,サービスの方法を明確にした手順書(作業指示書)。
      • ・製造,据付け,サービスのための適切な設備の使用と作業環境。
      • ・品質計画書,作業指示書の遵守。
      • ・工程指標および製品特性の監視。
      • ・工程および設備の承認。
      • ・作業出来映え基準。
      • ・設備メンテナンス。
    • ② 特殊工程については工程で品質を作り込む方法を明確にし,特別な管理を行って品質確保をはかる。
    • 〔注〕 特殊工程とは,後工程の検査や試験によってチェックできない工程のこと(たとえば溶接,メッキ,熱処理など)。
  • 【背景】
    • ① 「品質は検査ではなく工程で作り込まれる」というように,工程管理は製品品質を設計が意図した通り作り込むための非常に大切な管理である。
    • ②  工程管理の仕方については,それぞれ固有技術に基づいた独特のやり方があるが,この管理のやり方次第で品質に関するコストが変わってくる。作業指示書,手順書,外観見本,統計的手法など業種によっていろいろな工夫がある。
    • ③  破壊検査をしないと品質の良し悪しがわからない工程では特別な管理を必要とし,人,機械,条件(温度,湿度,圧力,周囲環境),手順などの管理を明確にして生産を行う。
    • ④ このような場合,QC工程表,品質計画書などは有効な工程管理の手段である。
  • 【企業内実施例】
    • ① 図面,フローチャート,作業指示書,QC工程表,品質計画書などの内容,体系,部門を定めた基準がある。
    • ② 図面,フローチャート,作業指示書,QC工程表,品質計画書などの作成,変更,登録,発行,回収などの方法を定めた基準がある。
    • ③ 生産に用いられる設備について精度,評価方法,メーカーとの調整部門を定めた基準がある。
    • ④ 設備の点検,異常時の処置などの管理すべき事項を定めた基準がある。
    • ⑤ 外観などの良否判断をするときの限度見本の作成,承認,有効期限,表示,回収,部門などを定めた基準がある。
    • ⑥ 溶接,メッキ,熱処理などの工程で特別の管理をする基準が定められている。
    • ⑦ 基準通りに特殊工程が明確にされ,工程に明示されている(少なくとも品質マニュアルに明示されている)。
    • ⑧ 特殊工程に従事する作業者には必要な教育を実施している。
    • ⑨ 特殊工程に従事する作業者についての教育,資格の記録が残っている。
  • 【審査時の質問事項】
    • ① 工程管理のやり方を説明してください。
    • ② その基準書を見せてください。
    • ③ QC工程表または品質計画書を作成していますか? あれば見せてください。
    • ④ 設備の日常点検,定期点検の基準書を見せてください。
      官能検査の限度見本はどの部門で作り,承認していますか?
    • ⑤ 保管,使用部門はどこですか?
    • ⑥ 貴社には特殊工程がありますか?
    • ⑦ 特殊工程の管理方法について説明してください。
    • ⑧ 特殊工程の作業者の教育・訓練計画を見せてください。
    • ⑨ その記録を見せてください。
  • 【不適合】
    • ① 工程管理の基準通りに現場で実行されていない。
    • ② 特殊工程の定義によって作業が認定されていない。
    • ③ 作業者の教育・訓練がなされていない,記録がない。
    • 〔注〕 基準書の種類,内容についてではなく,あくまでもその工場にある基準に照らし合わせて現実の状態をチェックする。

条項 4.10 Inspection and testing(検査・試験)
条項 4.10.1 General(一般)

  • 【ポイント】
    • ① 製品が規定要求事項に適合していることを確認するための文書化した検査および試験の手順を規定する。
    • ② 検査および試験については,品質計画書および手順書の中に文書化する。
  • 【背景】
    • ① 最終製品品質は原材料,部品,加工,組立てなどのいろいろな要素によってその良し悪しが決まってくるが,それぞれの最終製品品質への寄与率は製品に固有のものである。
    • ② 最終製品品質を決定する要因を分析して,それぞれの要素の規定要求事項を明確にし,検査および試験の手順を確立する。その際に,品質計画書は有用な手段になる。
  • 【企業内実施例】
    • ① 品質に影響を与える要素の検査および試験の手順が決まっている。
    • ② 品質計画書が作成されている。
    • ③ 手順書が作成されている。
  • 【審査時の質問事項】
    • ① 品質計画書を見せてください。
    • ② 品質計画書,手順書のなかで,検査および試験に関することを説明してください。
  • 【不適合】
    • ① 検査および試験の手順が文書化されていない。
    • ② 文書化されている通りに検査および試験を実施していない。

条項 4.10 Inspection and testing(検査・試験)
条項 4.10.2 Receiving inspection and testing(購入検査・試験)
条項 4.10.2.1

  • 【ポイント】
    • ① 受入物品は,それが規定要求事項に適合していることを検査および試験によって確認し終わるまで使用しない。
      ただし,4.10.2.3項に示す状況の場合は除く。
  • 【背景】
    • ① 搬入されるすべての物品(部品,材料,半完成品,完成品など)の受入検査のやり方,たとえば検査方式,無検査移行,データ確認など,その製品の状況に応じて検査の工夫をしていく。
    • ② Cost of quality(品質のコスト)意識も最近重要視されているが,まずは品質の確保に主眼をおいて計画を立て,実行していくべきであろう。
  • 【企業内実施例】
    • ① 受入方法,検査方法,監査方法などを定めた基準がある。
    • ② 受入検査基準の作成,承認,制定,登録,配布,回収などの手続きを定めた基準がある。
    • ③ 受入検査が実施され,その記録が残っている。
    • ④ 基準通りに受入れがなされており,合格品以外は流さない。

条項 4.10 Inspection and testing(検査・試験)
条項 4.10.2 Receiving inspection and testing(購入検査・試験)
条項4.10.2.2

  • 【ポイント】
    • ① 受入検査のやり方,たとえば検査項目,抜取数を決定するときには,下請負契約先工場における品質管理の実態を考慮する。
  • 【背景】
    • ① 外部から部品または半加工品を受け入れるときには,今までの実績に応じて,きつめの検査,なみの検査,ゆるい検査を選択する。
      あるいは今までの品質がある期間,連続して良好な場合には,無検査で受け入れる場合もある。
    • ② 下請負契約先の品質達成度に応じて受入検査および試験のやり方を調節する検査方式がとられている。
  • 【企業内実施例】
    • ① 下請負契約先の品質状態,達成度把握の仕方が決まっている。
    • ② 下請負契約先の品質状態を受入検査に影響させる仕組みがある。
  • 【審査時の質問事項】
    • ① 下請負契約先の品質状況をどのように把握していますか?
    • ② 受入検査にその状況をどのように影響させていますか?
  • 【不適合】
    • ① 下請負契約先の品質状態を把握していない。
    • 〔注〕下請負契約先の品質状態を定期的に把握するシステムが構築されていればよい。

条項 4.10 Inspection and testing(検査・試験)

条項 4.10.2 Receiving inspection and testing(購入検査・試験)
条項4.10.2.3

  • 【ポイント】
    • ① 緊急で受入検査なしで使用する場合は,その記録,回収および交換などの方法を定めて実行する。
  • 【背景】
    • ① 組立工場においては,たとえばネジ1本がなくても組立ライン全体が止まってしまう。
    • このような場合の経済的損失は,そのラインに従事している従業員数ならびに機械設備投資金額から推し量ることが出来るが,たぶん大きいものであろう。
    • こうした状況において,この4.10.2.3項は適用する。
  • 【企業内実施例】
    • ① 緊急使用の場合の識別,記録の手続きが定められている。
    • ② 緊急使用の場合の回収および交換の手続きが定められている。
  • 【審査時の質問事項】
    • ① 緊急使用の場合の識別の仕方を説明してください。
    • ② 緊急使用の場合の回収の仕方を説明してください。
    • ③ 緊急使用した場合の記録を見せてください。
  • 【企業内実施例】
    • ① 緊急使用の場合の識別,記録の手続きが定められている。
    • ② 緊急使用の場合の回収および交換の手続きが定められている。
    • ③ 緊急使用した場合の記録を見せてください。
  • 【不適合】
    • ① 緊急使用した記録が存在しない(緊急使用した実績があるにもかかわらず)。
    • ② 緊急使用の場合の手続きが定められていない。