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「パフォーマンスの改善」(第33回)

平林良人「パフォーマンスの改善」(2000年)アーカイブ 第33回

戦略はなぜ失敗するのか?

しっかりした戦略は戦いの半ばにすぎません。我々の経験では、成功と呼べる成果を出せない多くの戦略は明確で発展的なビジョンをもっていないという理由ではなく、むしろ導入のまずさにより屑を集めてしまっていることにより失敗しています。あいにく、最良の戦略でさえ自然発生的にパフォーマンスを誘起しません。戦略を実施する包括的な活動が、計画され、実施され、監視されなければなりません。加えて、トップのマネージャーが、どんなに有能で、かつ頑張ろうとも自分たちだけで戦略を実施することができません。実施に際しての重要な役割は、中間マネージャーとシステムを運営管理する他の要員と、そして、戦略に従うか、無視する要員によって果たされなければなりません。
実施の初期段階では、戦略を広範囲に浸透させるべきです。情報漏洩の様なコミュニケーションの否定的な面(競合相手が市場を観察することにより結局は察知するであろう)は、コミュニケーションを取らないことの否定的な面(戦略の失敗)ほど重大ではありません。
要員が戦略を理解したら、経営層は戦略の実施をサポートするインフラストラクチャを確立すべきです。インフラストラクチャは、組織、プロセス及び業務/遂行者の3つのレベルで確立される必要があります。したがって、11の質問にもう2つを追加することにします。

戦略の実施(要素5)に関する質問。

戦略の実施可能性を評価するのに、どんな財政的、そして非財政的な評価指標を使用しますか?
戦略実施計画は、以下のことがらをどのように確実にしますか?

部門の目標、設計及び運営管理が戦略を支える
プロセス目標、設計及び運営管理が戦略を支える
職位/要員の目標、設計及び運営管理が戦略を支える

システムの一部分としての株主へのお金の還流は、組織がこれらの13の質問をどれくらい上手く対応したかに関する指標です。

戦略実施の3つのレベル

第4章では、戦略によって励起される組織目標を開発する必要性について述べました。扱った例には、2年以内に3つの新しいソフトウェア製品と2つの新しいシステム統合サービスを導入するという戦略目標がありました。もし目標が製品開発、操業及びマーケティング(組織レベル)の目標に反映されず、効率的な製品開発と導入のプロセス(プロセスレベル)によってサポートされず、研究技術者と販売組織(業務/遂行者レベル)に対する褒賞システムによって補強されていないなら、その目標は達成されそうにはありません。
我々が発見した最も強力な戦略実施ツールは、組織、プロセス及び業務/遂行者の3つのレベルでパフォーマンスを効果的に設計し、運営管理のサポートを行なうものです。図7.1に示されている最初の11の質問に答えることによって、一旦、戦略を定式化できた後は、質問13の背後にある質問に答えることによって、実施計画の作成に専念することができます。

組織レベル
目標:どんな顧客と財政的な目標を設定し、監視するつもりですか?
設計:競争優位性を獲得するために、どんな内部の顧客-供給者の関係を必要としますか?
マネジネント:どれ程度、どんな種類の資源が機能(部門)に割り当てられる必要がありますか?

プロセスレベル
目標:競争優位性に不可欠なプロセスに対する目標は何ですか?
設計:戦略上重要なプロセスが効率的に効果的に働いていることを確実にするために何をしていますか?
マネジネント:重要なプロセスが進行形で運営管理されることをどのように確実にしていますか?

業務/遂行者レベル
目標:プロセスの成功(戦略的)に最も重要である業務に対する目標は何ですか?
設計:重要な業務が戦略的成功に最大限貢献するように、これらの業務設計を行なうために何をしていますか?
マネジネント:各業務の戦略的な貢献をサポートする環境作りのために、何(フィードバック、教育訓練、インセンティブ)をしていますか?

これらの質問に対する対応は、戦略実施計画の核を表しています。この本全体を通じて、これらの対応を開発する手助けをするように考案された、組織マップ、プロセスマネジメント、ヒューマンパフォーマンスマネジメント、評価等のツール類を提示します。

パフォーマンスを戦略に連動させる:例

Baldwin Drug Stores社(架空の会社)は薬局・雑貨チェーンです。非常に競争の激しい業界で成功するために、Baldwin社の経営幹部は、日々のパフォーマンスを明確に誘導する戦略を確立する必要性を認識しています。彼らは基本的なことがらの全てが網羅されていることを確認するために、11の質問を使用しました。トップマネジメントの戦略定式化に関する判断の結果を以下の通りまとめることができます。

価値を記述したリストを策定しました。それらは次の通りです。

Baldwin社は、高い品質の製品・サービスだけを販売します。
Baldwin社の従業員は、顧客の期待を満たし、それを超えるサービスを提供するために一層の努力をします。
従業員がアイデアの源泉であり、ビジネスは従業員参加型、オープンスタイルで行います。

非常に変化の激しい業界では、3年間戦略が適切であると決めました。
市場調査情報と彼ら自身の理解を基に、現在から3年間Baldwin社がビジネスを行う環境に関する仮説のリストを作成しました。これらの仮説のいくつかは以下の通りです。

薬品業界規則の規制緩和は、新薬の量を増やし、一般医薬品の数を劇的に増やすだろう。
Baldwin社の所在地の地域経済は成長し続けだろう。
低賃金のフルタイムかパートタイムのレジ係と陳列担当を見つけるのは、ますます難しくなるだろう。
ディスカウント薬局とスーパーマーケットは、継続して最もあなどりがたい競合相手である。
基本的な製品が提供する価値を超えた価値を見出せると顧客が思うえば、少し高くても喜んで買い続ける。