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地域におけるデジタル実装 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■地域におけるデジタル実装の現在地

技術の進歩は、これまでも人間の生活や社会を大きく変革してきた。デジタル化による社会課題の解決に向けて、ICT(情報通信技術)の進展による変化や関連する先端技術の動向を踏まえつつ、デジタル化の特性を踏まえ目的に応じて効果的に取り込んでいくことが重要である。ここでは、デジタル技術に焦点を当て、地域におけるデジタル実装の現在地について、国土交通分野を中心に整理する。

(地域課題の解決に向けたデジタル技術活用の機運の高まり)
内閣官房が実施した調査では、デジタル技術を活用した地域課題の解決・改善に向けて、取組みを推進していると答えた自治体は2019年度の約15%から、2021年度には約45%へ増加した。自治体において、地域課題の解決に向けたデジタル技術活用の機運が高まっていることがうかがえる。

(進展するデジタル技術)
ICTの進展により、コンピュータやスマートフォン同士をインターネットで接続することによって「オンライン化」が進み、これまで多くの変化がもたらされた。例えば、SNSの普及により、これまでのメディアと異なり個人が情報発信者となることが可能となり、従来では想定されなかったような人とのつながりや新たなコミュニティが形成され、コミュニケーションのあり方が変わるなどの変化がもたらされた。また、コロナ禍を契機にテレワークやeコマースが広く普及するなど、働き方や購買方法が大きく変化した。IoT(Internet of Things)の進展により、車や家電等の日用品を含め、様々なものがインターネットにつながることが可能となった。また、相互情報交換や、遠隔制御を通じ、個々の機器により得られたものをはじめ多くの情報収集が可能となり、ビッグデータ化が容易になるなどの変化がもたらされた。

このIoTやビッグデータの進展により、様々な分野で新しいサービスが創出されている。また、AI(人工知能)は、コンピュータやスマートフォン、インターネットの普及とも相まって、交通・物流、医療、災害対策など様々な分野において活用されており、私たちの身近な生活にも既に浸透している。例えば、スマートフォンのカメラは、AIの画像認識の能力向上に伴い、持ち主の顔を認証することによりロックの解除などが可能となり、AIの音声認識の能力向上に伴い、音声入力によるインターネット検索なども可能となった。また、AIが自らインターネット上にあふれた膨大な情報を学習・推論する「ディープラーニング」も可能となっている。さらに、AIやセンサが搭載された産業用ロボットの導入も進むとともに、一般家庭用の掃除ロボット等の普及についても広がりを見せている。

以上のように、AI(人間の脳に相当)、IoT(人間の神経系に相当)、ロボット(人間の筋肉に相当)、センサ(人間の目に相当)といった第4次産業革命における技術革新は、私たちの暮らしや経済社会を画期的に変えようとしている。国土交通分野においても、技術革新を積極的に取り入れ、国民一人ひとりの暮らしを豊かにするとともに、経済社会を支えていくことが求められている。以下では、AI、ドローン、ロボット、自動運転技術の順に足元の動きをみていく。

(AIの活用による移動サービスの多様化)
AIは、従来型の公共交通サービスを効率化・多様化させており、例えば、AIオンデマンド交通は、AIを活用し利用者予約に対しリアルタイムに最適配車を行うシステムである。これにより、限られたリソースが効率的に活用でき、例えば地方部の需要が少なく採算の得にくい地域における移動手段の確保につながっていくことや、都市部を含め、交通サービスの多様化により私たちの暮らしの利便性が向上することが期待される。

(具体例紹介:複数の交通手段を1つのアプリで検索・予約・決済するAIを活用したMaaS(スイス連邦鉄道モバイル、スイス))
スイス連邦は、人口約870万人の欧州の国であり、スイス連邦鉄道(SBB)は、1902年に設立された約3,000kmのネットワークを持つスイス最大の鉄道会社である。SBBは、私鉄各社と相互乗り入れしながらスイス全土をくまなく結んでおり、近隣諸国とはヨーロッパ高速鉄道網で接続している。同国では、公共交通の輸送会社に対し、輸送手段や会社に関係なく、出発駅から目的駅まで単一のチケットで移動可能とするサービスを提供することが旅客の輸送に関する連邦法で義務付けられているとともに、政府は一貫してデジタルファーストを推進しており、「デジタルスイス戦略」の行動計画の中で、「インテリジェントでネットワーク化された、あらゆる分野における効率的なモビリティ」を目標に掲げている。

こうした中、SBBはMaaSアプリ「SBB Mobile」を導入し、同アプリに自動発券システム「EasyRide」メニューを追加し、2019年よりサービスを開始した。EasyRideの導入により、利用者は複数の交通手段を1つのアプリで検索・予約・決済することが可能となり、チケットレスで電車やバス、船といった公共交通を自由に乗り継ぐことができる。利用料金については、AIがGPS情報等に基づく移動経路を推定し、割引額(ワンデーパスやグループ料金等)や時間帯変動価格等を組み合わせ、通常購入時と比べより安価になるようなチケット金額を算出し利用者に請求する。なお、同アプリの「EasyRide」画面で、移動を始めるにあたりスタートボタンをスワイプして「チェックイン」することでサービスが開始され、車内では車掌がチケットを保持しているか携帯同士で確認することで無賃乗車を防ぐ運用をとっている。

2021年におけるSBBのチケット利用数約1億1,800万枚のうち、EasyRideによる販売数は前年の2.4倍となる約940万枚と利用が増えている。SBBは、2030年に向けた戦略の中で、より利便性の高い移動に向けて、様々なモビリティについてMaaSアプリで利用可能とすることで、提供するサービスの質の向上や移動の効率性を高めることなどを目標として掲げている。

(AIの活用による防災・減災対策の高度化)
AIにより、気象や災害等に関する膨大なデータを収集・解析し、浸水状況やインフラ・建物の損傷状況等を把握することが可能となった。AIによる被災状況等の把握は、災害時の意思決定支援などに用いられ、社会の安全性の向上につながっていくことが期待される。近年、発災直前・発災直後において、AIなどの技術を活用して地域の被害状況を迅速に見える化し、起こりうるリスクを予測することにより、命を守る行動をとる上で重要な初動・応急対応へAIを活用していく動きがみられる。

(具体例紹介:AIを活用した防災・減災対策の高度化(AIやドローン等の先端技術を活用した防災情報システム、大分県))
近年、自然災害が頻発化・激甚化しており、災害発生時における初動対応に被害拡大の抑制のための即応性等が求められる中、被災状況など情報収集の重要性が増しており、AIなどの先端技術の活用が重要である。例えば、大分県では、AIによる防災危機管理情報サービス(Spectee Pro)と県のシステムを連携している。同サービスを導入することで、複数のSNS情報から、AIを活用して「デマ情報」を排除し、正確な被害状況を自動的に地図上に可視化することができるようになり、浸水範囲の把握など初動対応に必要な情報収集が可能となった。

「令和2年7月豪雨」時には、同サービスを被害状況の情報収集に際し活用し、土砂災害等による孤立からの救助や安否確認などを求める投稿を収集・リプライして被害状況の確認や適切な連絡先を伝えるなど、救助に活用することができた。また、大分大学等が開発している災害情報共有活用プラットフォーム「EDiSON(エジソン)」と県のシステムを連携することにより、ドローンで撮影した災害現場の状況を確認できるようにしており、SNSに投稿された画像や動画付きの情報に加え、上空からの情報を組み合わせることにより、現場に出向かずともスピード感をもって状況判断を行うとともに、通常、人が入れないエリアの被災状況を把握し対応することも可能となった。大分県では、今後も先端技術を取り入れながら、防災対策に取り組んでいくこととしている。

(AIの活用によるインフラメンテナンスの高度化・効率化)
インフラの維持・管理にもAIの活用が進んでいる。インフラの膨大な点検画像をもとにAIが迅速に補修の必要性等を判断するなど、日常的な調査点検等の業務効率の改善が可能となっている。また、目視など人の目では確認できない損傷等を含め定量的に把握することが可能となっており、最新技術を活かしたインフラメンテナンスの高度化を図る動きがみられる。近年、公共インフラの老朽化が進行しており、インフラメンテナンスにおいては、技術的知見を持つ人材不足やメンテナンス費用の継続的な確保が課題とされ、予防保全に向けた取組みも求められている中、AIを取り入れて効率化・高度化を図ることが期待される。

(具体例紹介:AIを活用した空港滑走路点検の高度化・効率化(和歌山県・南紀白浜空港))
地方自治体等の管理による地方管理空港は、資金面でも人材確保の面でも余裕のない側面もあり、安全・安心を継続的に維持するためには、より生産性が高く効率的な維持管理が重要である。和歌山県にある南紀白浜空港では、AIと市販のドライブレコーダー(以下、ドラレコ)を組み合わせることで航空機の安全運航に欠かせない空港滑走路の点検及び補修を実施し、予防保全を含む維持管理の効率化・高度化に取り組んでいる。同空港では、全長2,000m、幅員45mの滑走路を、365日、朝夕2回、職員1名が点検車を運転しながら、落下物の有無、滑走路のひび割れや損得等を目視で点検している。点検車にドラレコを設置し、点検時に路面の状況をドラレコに記録し、その画像から学習を重ねたAIが亀裂、滑走路のひび割れや損傷等の異常を自動検知する技術を実用化し、2021年4月から運用を行っている。

これにより、熟練技術者のみならず、空港勤務経験が浅い職員であっても滑走路点検を行うことが可能となり、担い手確保の面で効果があった。また、予防保全の観点では、適切なタイミングで修繕工事を行うことで、滑走路の寿命を延ばすことにより相応のコスト削減が見込まれるが、AI導入により、熟練技術者でも目視で確認できない損傷進行度の定量把握・モニタリングが可能となった。同空港は、和歌山県より委託を受けた㈱南紀白浜エアポートが2019年より運営しており、コロナ禍で滑走路の稼働が低かった際にAIによる機械学習を重ねて本技術の実証に取り組んできた。また、同技術の横展開に向けて、他の地方空港への応用だけでなく、2022年3月より、紀南エリアの国道42号において空港リムジンバスに設置するドラレコを用いて道路管理者の目視点検をAIが支援する実証事業も行っている。今後とも、同社では、空港インフラを活用し、地方の課題解決に向けた汎用性のあるデジタル技術の実証・実装とともに、新サービスの創出に取り組んでいくこととしている。

(つづく)Y.H

(出典)
国土交通省 令和5年版国土交通白書
令和5年版国土交通白書