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デジタル田園都市国家構想 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■デジタル田園都市国家構想と国土交通分野における取組み
デジタル田園都市国家構想の実現に向けて
(デジタル田園都市国家構想)
近年、テレワークの普及や地方移住への関心の高まりなど、社会情勢がこれまでとは大きく変化している中、地方における仕事や暮らしの向上に資する新たなサービスの創出、持続可能性の向上、Well-beingの実現等を通じて、デジタル化の恩恵を国民や事業者が享受できる社会、いわば「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を目指す「デジタル田園都市国家構想」を政府の重要な柱としている。

本構想の実現に向け、「デジタル田園都市国家構想総合戦略」(2022年12月)に基づき、東京圏への過度な一極集中の是正や多極化を図り、地方に住み働きながら都会に匹敵する情報やサービスを利用できるようにすることで、地方の社会課題を成長の原動力とし、地方から全国へとボトムアップの成長につなげていくこととしている。また、デジタルは、地域社会の生産性や利便性を飛躍的に高め、産業や生活の質を大きく向上させ、地域の魅力を高める力を持っており、地方が直面する社会課題の解決の切り札となるだけではなく、新しい付加価値を生み出す源泉として、官民双方で地域におけるデジタル・トランスフォーメーションを積極的に推進することとしている。

(これからの豊かな暮らし、地方での新しいサービスの創出について)
(㈱umari 代表取締役 古田秘馬氏インタビュー)
デジタル田園都市国家構想の実現に向けては、地方で新しいサービスの創出を図ることが重要である。「共助」のコンセプトで新しい取組みに挑戦している古田氏に、人口減少が加速する地域において、デジタル活用により暮らしを持続的に支えていく取組みについてお話を伺った。

●課題解決に向けた新しい挑戦が必要
課題解決に向けて、新しいことに取り組んでいる地域は進展している。一方で、これまで通りの取組み方から抜け出せない地域は、今後、ますます硬直化していく。例えば、地域特有の産業を前提に地域の取組みを考えてしまうと、ゼロから新しい取組みを検討することが難しく、身動きがとりにくくなってしまいがちである。むしろ地域特有の産業がなかった地域でこそ、新しい取組みに挑戦できているケースもあるのではないか。デジタル化による社会の変革のためには、従来のやり方ではなく、本当に新しいことを始める必要があり、中央の体制から離れた場所の方が変革が生まれやすいとも捉えている。

デジタル化は地域の価値を見える化する中、都心への近さなど地理性や機能性より、本質的な部分での価値が問われていくと思う。地域の課題は、その地域に特有の課題というよりは、社会全体の課題の縮図であり、課題解決に向けて新しいことに挑戦する地域が増えることにより、社会全体の課題解決にもつながっていくのではないか。

●デジタル・トランスフォーメーションによる新しい地域サービスの創出
地域活性化においてデジタル活用は必須である。ただし、デジタル活用には、デジタイゼーション、デジタライゼーション、そしてデジタル・トランスフォーメーションといった段階がある。例えば「書類を廃止してメールにする」ことはデジタイゼーションであり、多くの自治体行政はこの部分に留まっている。デジタライゼーションは、それによって多くの書類を同時に送ることができるなど、今までにないことが可能となることで、これらをもう一歩進め、新しいサービスが創出されるとデジタル・トランスフォーメーションとなる。例えば、交通分野のデジタル・トランスフォーメーションは、今まで事業者が別々に保持していたデータを連携することで、リアルタイムで需要を予測し、地域住民の行動に合わせたタイミングで車が供給されることにも活用でき、オンデマンド型の新しいサービスの創出に繋がるかもしれないといったようなことである。

地域における新サービスの創出に向け、業種や分野ごとの縦割りではなく、データ活用により連携を強化し、各企業の個別業務が横串で繋がれ、地元企業が一体となってサービスを検討していくことで、地域の暮らしを持続的に支えていくことが可能ではないかと考えている。また、分野横断的にみることで、資源配分を見直し、住民の満足度を上げながらコストを下げる方策を見出せる可能性も出てくるだろう。例えば、高齢者の活動量が上がると健康増進効果があり、高齢者の外出を支えるモビリティの維持には多面的な効果があり得るとの仮説を持った際、健康データや交通データなどを分野横断的に取得し分析することで、その地域にとって最適な配分が検討できる。特に地方部では、自治体予算や人的資源が限られる中、デジタル化により地域の見える化を図り資源配分を効率化することが可能となり、それが健康やモビリティ分野の新サービスに繋がっていくのではないか。この実現に向けては、事前の体制づくりや機運醸成が必要である。地域の事業者がディスカッションし、みんなで出資してみんなでリスクをとり、出資、経営、運営責任などを曖昧にせずに事業運営体制をしっかり整えることで、収益のある新たなサービスが生みだせると考えている。地域サービスを創出し、その対価としての収益を地域内で回すことができれば、地域に経済圏ができ、仕事を作ることにもつながり、安心して暮らせるようになると考えている。

●「共助」の考え方の重要性
地方における人口減少・市場の縮小により、大企業等の撤退を招くことが懸念され、従来型の取組みに固執していては、地域の暮らしの維持が厳しい局面に立たされかねない。また、公助のセーフティネットの提供はもとより、「共助」で担い得るサービスの提供まで、自治体行政として賄わなければならない風潮があると思う。今後は、公助と「共助」を切り分けて考え、「共助」については、地元企業が一体となってより良いサービスの提供に向けて取り組み、収益を確保することとし、このような「共助」での取組みが難しい部分については公助でしっかりカバーをするなど、棲み分けを明確化することで、地域の暮らしを守ることができるのではないか。例えば、交通の分野では、地元企業が一体となって、複数の民間企業がチームを編成し、「共助」として利便性の高いオンデマンドバス運行を担うことで、収益性のあるサービスを構築し、受益者が会員となって支える一方、行政は公助としてコミュニティバス運行を担い、地域の足の確保としてセーフティネットの部分に取り組むといった棲み分けを図ることが重要である。

教育であれば義務教育は公助、社会人学校は共助、医療であれば保険診療は公助、健康増進などは共助など、公助から共助を切り出していくことが大切である。つまり、地域にとって必要な生活機能やサービスの提供について、自分たち(複数の民間企業)が地域に共有する「共助」の考え方こそ、これからの地域づくりのコンセプトとして重要である。さらに、この考え方を発展させ、いずれは、地元企業が一体となって、異なるサービス事業者間で資源(稼働率の低い設備や人員)を共有することで各々の事業運営を効率化し、地域住民に必要な交通・教育などの生活サービスを「ベーシックインフラサービス」としてパッケージ化して提供するなど、「共助」での取組みの幅を広げて全く新しいサービスが提供できないかと考えている。この結果、住民側からみれば、必要な交通・教育などの生活サービスがより手軽に利用できる環境が整うと考えている。

新しいことを生み出すためには、人材が必要であるが、1人のスーパーマンのような人材に頼ることは難しく、大きく分けて3つのレイヤーがある。1つ目は、例えていうとシステムエンジニア、2つ目はコンサルで(システムエンジニアに仕様を落とし込むなど、間に入って取りまとめを行う位置付けの人)、そして3つ目は、地域側の事業に精通したディレクター(地域の方々とコミュニケーションをとり、どう進めるべきか方向性を示す人)である。このようなバランスを考えた体制作りが大切である。

●これからの時代の豊かな暮らしに向けて
現代社会は複雑化・多様化しており、人々が自分の中で何が幸せなのかを再定義していくことが大切である。答えは外ではなく、自分の内面にあるのではないだろうか。つまり、人が決めた価値観ではなく、一人ひとりが自分の中で、何が本当に良いと思っているかを決められていることが、真に豊かな暮らしにつながっていくのではないかと考えている。行政においても、社会が複雑化・多様化している現代、今まで以上に分野を横断して連携して課題に対応していくべきである。

(つづく)Y.H

(出典)
国土交通省 令和5年版国土交通白書
令和5年版国土交通白書