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デジタルの質的向上によるスマートシティ | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■デジタルの質的向上によるスマートシティ

これからは国民や政策ニーズの変化に迅速に対応すべく、効果的にデータを収集・活用し、デジタル化により暮らしやすさを実現していくことが求められます。デジタル化は、時間と空間の制約を取り払うこともあり、地域が直面する課題を解決する可能性を飛躍的に増大させるとともに、データ収集、アイデアや手法の共有、さらにはそれらの全国展開を容易にする力を持っています。各地やそれぞれが解決すべき課題を整理し、地域の活力を高め、心豊かな暮らしを実現すべく、デジタル化の力を活用した地域活性化を図っていくことが必要です。

持続可能で活力ある地域づくりを目指すにあたっては、地域が主体となって、自らの地域ビジョンを描き、そこに向けた地域活性化の取組みを進めていくことが重要です。特に、人口減少が進む地方において、デジタル技術を活用し、生活サービス提供の効率化等を図るとともに、これまでは場所や時間の制約で実現できなかった生活サービスの実現可能性を高めるなど、リアルの地域空間の生活の質の維持・向上を図ることが期待されます。既に取組みが進んでいる地域づくりの事例を紹介します。

オープンデータを活用した簡易な自動運転車の自己位置推定システム構築(PLATEAU、国土交通省)
自動運転は地域課題の解決に資することが見込まれている一方、必要なシステムは技術面・費用面等での課題がある。例えば、自動運転システムには自己位置推定(VPS、Visual Positioning System)が必要であるが、精度の確保に加え、高コストな点が課題である。このような中、低コストで効率的な自動運転システムへの活用可能性を検証すべく、2021・2022年度に、国土交通省は沼津市と連携し、3D都市モデル(PLATEAU)とカメラ画像等を組み合わせたVPSへの活用に資する実証・実装に向けた取組みを実施した(2023年度も取組みを継続)。これは車両に設置したスマートフォンで撮影したカメラ画像から取得した情報と、3D都市モデル(建物の詳細な形状のほか、外構、道路、都市設備等も整備)の特徴点とを照合することで車両の自己位置を推定し、安価で効率的なシステム構築の可能性を検証する取組みである。オープンデータである3D都市モデルを活用したVPSの実装が実現すれば、3D都市モデルが整備された地域であればどこでも簡易に自己位置推定システムの活用が可能となり、自己位置指定アルゴ

(集約型で暮らしやすいまちづくり)
前述の通り、日常生活の利便性や生活コストに対する人々のニーズや、県庁所在地・中核市等への潜在的な居住ニーズがうかがえる中、例えば、地方圏の県庁所在地や中核市において、住民の生活に身近な課題をデジタル化により解消する取組みから先端技術サービスの実装まで、生活の利便性を向上する取組みを加速化することが重要である。その際、リアルの地域空間において、デジタル活用を図りつつ、地域空間の機能集約によるコンパクト化と地域公共交通の再構築の有機的連携を一層推し進めることが必要である。

出典:国土交通省 令和5年版国土交通白書

富山市は、人口約40万人の日本海側の県庁所在地です。このような中、データ駆動型スマートシティの実現による課題解決に向けて、IoT技術や電子申請による新たなデータ取得を図るとともに、データ活用による業務効率化やEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング、証拠に基づく政策立案)の実施、オープンデータ化による官民連携での新サービス創出を目指しています。

事例を紹介しますと、富山市では、デジタル化を通じたコンパクトシティの深化である富山版スマートシティを推進しています。富山市は、少子高齢化等を背景に、公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくりにより、まちなかや公共交通沿線への居住の促進が図られ、地価の上昇や転入超過となる効果が生じた一方、沿岸部や中山間地域を含む郊外部では人口減少や高齢化が顕著に進んでおり、地域コミュニティの維持や住民の生活の質の向上などの課題に直面しています。

具体的には、データ取得・集積のため、2018年、約100施設の公有財産等にLPWA(Low Power Wide Area)を設置し、市域の98.9%をカバーするIoT用通信網と都市OSからなる「富山市センサーネットワーク」を整備し、利活用を図っている。従来から実施していたGIS等を用いた住民基本台帳等の自治体保有情報の活用に加え、IoTセンサーによるリアルタイム情報を組み合わせること等により、ビッグデータの利用・解析を行い、自治体業務の効率化を図っている。また、当該センサーネットワークを企業等に実証実験環境として無償で提供することでSociety5.0における新産業の創出や、社会課題の解決に資するサービス創出に取り組んでいる。これにより、例えば、IoT水位計による小規模河川水位監視システムや消雪装置遠隔監視システム等が実装され、省力化が図られるなどの効果があった。また、センサーを活用した市民との協同事業として、毎年2,000名程度の児童にGPSセンサーを貸与して、登下校路の実態データを取得し、そのデータを富山大学と共同で分析・「見える化」して小学校や地域の方と共有することで、地域全体で児童の安全・安心の向上を図る事業も展開している。

データを活用した登下校路の安全の向上という直接的な効果だけでなく、地域が運営するコミュニティバスにおける児童に合わせたバス路線・ダイヤの変更なども検討されている。さらに、市民情報公開サイト「Toyama Smart City Square」により、河川水位情報、道路工事・通行制限情報、消防車両出動情報、除雪車による除雪情報、行政窓口の混雑状況などリアルタイムでの提供が効果的な情報をウェブ配信し、例えば窓口混雑の平準化による市民の利便性向上と行政業務の効率化が図られている。今後、都市OSへ集約されたセンサー情報等を活用し、市民サービス、インフラ監視、民間利用などを図り、スマートシティの更なる発展を目指すこととしている。市ではこれまでもコンパクトシティ政策を進めるにあたり、住民基本台帳による人口分布等をGISに展開することで、都市構造やその変化等を把握・分析・可視化し、まちづくり施策の立案や効果検証などを実施してきた。例えば、居住誘導エリアにおける身近な商業施設の立地と利用圏域人口を分析するとともに、不足エリアに対する移動販売支援を踏まえた充足状況の把握を可能とすることで、市民の生活の利便性向上を図っている。2022年、市は、「富山市スマートシティ推進ビジョン」を策定し、デジタル技術・データの更なる利活用によりコンパクトシティ政策を補完し、市民生活の質や利便性の向上、地域特性に応じた市内全域の均衡ある発展を目指す取組みを推進していくこととしている。

出典:国土交通省 令和5年版国土交通白書

富山県では、成長戦略では、ウェルビーイングを「社会的な立場、周囲の人間関係や地域社会とのつながりなども含めて、自分らしくいきいきと生きられること」と説明し、県民意識調査結果の分析を基に策定した、多面的な主観的要素で構成される県独自の指標を2023年1月に公表しています。県ではこの指標を政策の羅針盤として捉え、今後、各種統計等の客観データに加え、継続的に測定する県民意識の主観的データをベースとして活用し、ウェルビーイングの観点からの課題・ニーズの可視化、政策立案、政策間の横連携促進、効果検証等、ウェルビーイング政策の展開にチャレンジしていくこととしています。これらの政策は、2022年2月に策定した「富山県成長戦略」に、国内外において注目が高まる「ウェルビーイング(Well-being)」を中心に掲げ、「幸せ人口1000万~ウェルビーイング先進地域、富山~」のビジョンのもと、まちづくり戦略を含む6つの柱の取組みを進めています。

このようにデジタル技術で社会や暮らしの向上を図り、社会インフラをデジタル化で変えていく取組みは、関係する様々な人や団体、産官学民での連携を図ることが重要です。最初に取り組むべきことは、まちが強みをどう伸ばし、弱みをどう補うか、これからどうありたいかといったビジョンを持つことであり、スマートシティに集約される技術の先行ではなく、目的や課題を設定することが重要です。そうしたビジョンをまち全体の共通認識として、地域社会のあり方を、地域が主体となってデジタル化で変えていくことが肝要です。

スマートシティは私たちの暮らしに関わるものであり、暮らしは分野を隔てず横断するものである。例えば、朝起きてから、乗り物に乗って出かけ、学校や病院へいくとして、これらは行政の所管としては別の分野になるが、人々にとっては一体となっている。このため、住民目線で必要なサービスを支えるデータシステムも、教育分野、交通分野など分野を横断してつながることがスマートシティの観点で重要である。そうした分野を超えた連携が、使い勝手の良さを支え、使い勝手の良い魅力的なシステムは使い続けられ、サービスの持続性を高められるという好循環となり、持続性を支えることが期待される。また、スマートシティには多くの人の合意を必要とする。このことは合意形成が難しいという側面もあるものの、多くの関係者の知見が集まることで、新たな共創が可能であるとも捉えられる。そのまちにとって何が最も重要な課題かを洗い出し、共創によって課題解決を検討していく。その過程を通じて多くの人が自分ごととしてコミットすることになるため、結果的にそれがまちの持続性につながる側面がある。さらに、まちづくりを担う自治体の目線では、スマートシティを計画する際、支出というより投資という目線を持ち、投資効果として回収できるものに目を向けていくことが重要であると考える。投資効果が表れれば、さらに次の投資へとつなげていくことも可能であり、持続性が支えられると考えられる。

出典:国土交通省 令和5年版国土交通白書

一方、Well-beingについては、近年、指標整備が進み、主観と客観、双方の観点からまちのWell-beingを定量的に評価することが可能となっており、自治体によってはWell-beingを軸に取組みを評価する動きも見られます。技術を取り込んだらすなわち何かが解決するという考えではなく、ありたい姿や目的を定め、何に取り組むのか取捨選択していくためには、データを活用してEBPMを推進し、社会的効果についてもデータを活用して、Well-beingの面から定量的に測定することで、継続的に改善していくことが可能となります。スマートシティを目的で大別するならば、欧州等の環境配慮型のもの、インドなどインフラ開発型のもの、そして北欧や日本などWell-being型のものなどそれぞれ社会背景に応じた特色があります。取組みの進め方では、中国など中央集権的で迅速に進めるものもあれば、日本のように官民連携により、地域に近いところで意思決定を行い、取得されたデータも分散型でより現場に近いところで管理されるような民主的なプロセスで進めるやり方もあります。

(つづく)Y.H