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中国経済回復の特徴と課題 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に経済産業省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■中国経済の回復の特徴と課題

中国経済の2021年の特徴は、2020年の反動で年初は高い成長率を記録したものの、次第に減速していることである。反動増が剥落しただけでなく、年央から洪水、感染再拡大、電力不足、半導体不足、不動産規制、資源高、地方政府の財政難等の多様な要因が入り組んで作用している。この結果、GDPの内需に当たる総資本形成が年後半はマイナスとなったほか、最終消費の寄与度も縮小した。一方、主要国の経済回復や景気支援のための財政支出は、中国の輸出を促進する効果をもたらし、堅調な輸出が景気を下支えした。

今後の中長期的な中国の経済成長について触れたい。2000年代に、中国のGDP規模は主要国を次々と追い抜き、2010年に日本も抜いて世界第2位の経済大国となった。IMFの「世界経済見通し」では6年先までのGDP見通しを公表しており、これに基づくと、仮に2021~2027年の両国の年間平均成長率で、GDPを機械的に伸ばした場合、2030年頃に米中が逆転することになる。また、日本経済研究センターもアジア諸国の経済成長率予測を公表している。その中では、GDPは生産性、労働投入、資本投入の3要素の生産関数で決定され、例えば生産性はデジタル潜在力、都市化率、貿易開放度を用いて予測し、生産性に対して3要素がどのように影響するかは60か国の過去のデータから推計している。その結果、標準シナリオでは、2033年に中国のGDPは米国を上回るとしている。しかし、その後、米国が相対的に高い成長率を維持する一方で、中国は人口減少と生産性の伸びの鈍化により成長率が減速し、2056年に米国のGDPが再び中国を上回ると予測している。これに対して異なるアプローチから中国の成長率予測を行っているものもある。

例えば、日本銀行のワーキングペーパーである佐々木他(2021)では、中国の労働生産性が先進国にキャッチアップしていくという前提の下に、産業別の労働生産性と就業者の予測値から産業別経済規模を試算してGDPを予測している。そのベースラインシナリオでは2035年までにGDPを倍増させることは可能としている。もっとも、食料自給の観点から、就業者の農業から製造業・サービス業へのシフトに制約がかかること(農業改革の重要性)や拡大する製造業に十分な需要が見込めるか(国内需要の拡大ができるか)、少子高齢化による資本蓄積の低下(資本蓄積の減速を全要素生産性(TFP)成長率の加速で補えるか)等が課題としている。

(構造問題)
既に見たように2021年の中国経済は減速してきているが、短期的な景気動向とは別に、中長期的に中国が成長を続けていくためには多くの課題が指摘されている。

(1)人口動態
①出生率と生産年齢人口
中国においても少子高齢化が進んでいる。国連の人口推計(中位推計)によれば、生産年齢人口は既に2010年にピークを迎え、総人口も2030年以降は減少に転じると見込まれている。また、高齢人口・年少人口の生産年齢人口に対する比率(1人の働き手が養う人数)は急速に上昇していくと見られる。将来の人口動態は、一人の女性が一生の間に出産する子どもの推定値である合計特殊出生率に大きく影響され、国連の中位推計では合計特殊出生率を2020-25年は1.70と仮定して推計している。しかし、2021年5月に発表された2020年の第七次人口センサス(全数調査)では1.30という低い数値が公表され注目を集めた。人口を一定水準に保つために必要とされる2.1はもとより、国連の中位推計どころか、低位推計の前提条件も下回る水準であり、人口問題はより切実なものであることを示唆している。

より単純に、その年の出生者数の人口に対する比率を見ても、一人っ子政策が緩和・廃止された翌年は、出生率が一時的に上昇するものの、それ以降は再び低下が続き、2021年は過去最低の出生率を記録したほか、死亡率を差し引いた人口増加率も低下を続けている。中国の少子高齢化の背景には1979年から導入された一人っ子政策の影響が指摘されている。これまで同政策は2013年に夫婦のどちらかが一人っ子ならば2人目を認めると緩和され、2015年にはすべての夫婦に2人目を認めることで廃止された。しかし、生活費、養育費の問題や生活パターンの変化等から、期待されたほど出生率の増加が見られず、第7次人口センサスの結果を受けて2021年に子供を3人まで認めることが決定された。同時に教育費の上昇を抑える目的で、民営の塾は禁止され、教育産業は公営企業が行うこととされた。これらの政策が人口問題の解決につながるかは今後の動向を見ていく必要がある。

②労働力の地域的・産業別配置
生産年齢人口の総数だけでなく、労働力の地域的な再配置の問題もある。かつては農村部の余剰労働力が農民工として都市に流入していたが、現在の都市部の労働者の需給バランスを見ると、都市部求人倍率は1.0を越えて人手不足で推移している。その背景として、生産年齢人口の減少とともに、都市に流入する農民工の伸びの鈍化も考えられ、農村部の余剰労働力が枯渇している可能性を示唆している。また、農民工自身の高齢化も進行していることを踏まえると、今後、都市部において中長期的に労働力不足が生じていくことが考えられる。

一方、人口の都市部への移住も進行しており、農村部の居住人口が減少する一方で、都市部の居住人口は増加している。それに伴って、就業構造は、第一次産業から、相対的に付加価値の高い都市型の第二次、第三次産業へシフトし、社会全体の生産性を嵩上げすることも期待できる。また、都市人口の増大は住宅や都市インフラなど需要拡大を呼び起こす効果も考えられる。

(2)国有企業
①国有企業の効率性と国有企業政策
中国では、国有企業改革は重要なテーマで、長い間に渡って議論が行われてきた。例えば、1997年の第15回共産党大会では、国有企業を公共財などを提供する一部の業種に限って維持し、非国有企業と競合する分野から退出させる方針が表明され、実際に1990年代後半から中小国有企業を中心に民営化が行なわれた。このような国有企業改革の背景には、総じて国有企業は民営企業に比べて効率性が低いという事情がある。それにも関わらず、大きな資源が投入され、社会的な非効率が生まれているとの指摘がある。

国有企業改革の中で、中小国有企業を中心に民営化が行なわれたが、大型国有企業の改革は遅れている。習近平総書記の時代になってから行われた経済の基本方針を決める2013年の中国共産党中央委員会第三回全体会議(三中全会)において、「資源配分における市場の決定的役割」が強調され、2015年に公表された指導意見の中では、国有企業を商業類・公益類に区別することや混合所有制が提唱され、むしろ、国有企業を「より大きく、より卓越して、より強く」する方針が表明されている。国有企業が大きなシェアを占めるのは、資源、エネルギー等の分野で、一方、民営企業は木材、紡績、衣類、家具等の軽工業、民生品の分野で大きなシェアを有している。2021年の資源高による物価上昇では、川上の原材料製造を占める大手国有企業が価格を上昇させる一方で、消費者に近い民政分野を占める民営企業は、雇用・所得の回復が遅れる消費者との板挟みとなって、価格を思うように上げられず、経営が悪化した。なお、外資企業は電子通信機器、医薬品でのシェアが高い。

②政府補助金

また、国有企業については、政府からの支援が行われているのではないかとの指摘がある。ここで、政府支援の代表的な例として政府補助金の動向を見ていく。分析に当たっては、上場企業は財務諸表を公表していることから、そこに記載されている政府補助金のデータを利用する。図は上海・深圳証券取引所の上場企業について政府補助金の受取額を集計したものである。これを見ると、政府補助金は、国有企業だけでなく、民営企業に対しても幅広く交付されている。むしろ、2010年代半ば以降は、補助金総額としては、民営企業が中央政府や地方政府所管の国有企業を上回っている。1社あたりの補助金額は大型企業の多い中央政府所管の国有企業が大きいが、売上げ当たりの補助金額は民営企業が国有を上回って推移している。中国政府は産業の高度化に当たって、必ずしも国有企業にこだわらず、民営企業を含め幅広い企業に対して柔軟な支援を行っている様子がうかがえる。

次にどのような業種に補助金が支給されているかを見てみる。特に中国政府が2015年に公表した「中国製造2025」との関係を見ていく。「中国製造2025」は、中国を世界の製造強国に導くための産業政策で、重点となる10分野が指定されている。2015年の「中国製造2025」の公表後、全体に占める関連分野向け補助金のシェアが上昇している。中国企業の活動自体(売上高)が同分野へシフトしている影響もあるが、売上高に対する補助金の比率を見ても、「中国製造2025」関連業種は上昇していることから、売上高の変化以上に同分野への補助金が手厚くなっている様子がうかがえる。

重点10分野の中で、特に補助金の大きな分野について、企業タイプごとに集計する。次世代情報技術産業、バイオ医薬・高性能医療機器においては、国有企業よりも民営企業の補助金が大きく拡大している。既に見たように、もともと国有企業のシェアが高い分野、例えば、材料関係や自動車においては、国有企業向け補助金が民営企業と同水準、又は上回っているが、次世代情報技術産業やバイオ医薬・高性能医療機器のように民生に近い新分野においては民営企業が先導するという特徴が見受けられる。また、詳細分類におりて、太陽光発電装置について同様に集計すると、民営企業への補助金が拡大していることが分かる。半導体については民営企業も伸びているが、公衆企業がそれ以上に大きく伸びている。このような補助金は企業にどのような影響を与えるのだろうか。一つの方法として、補助金の手厚さ、具体的には補助金の売上高に対する比率の上位グループと下位グループで、財務状況等に違いがあるかどうかを調べてみた。これを見ると、赤字企業の割合は、民営企業の場合、上位グループでも下位グループでも余り相違はないのに対して、国有企業の場合はむしろ補助金をより受けているグループの方が赤字企業の割合が高い。業種特性など考慮すべき点があるので、ここから直ちに結論付けることはできないが、事実上、補助金が赤字補填を果たしている可能性が示唆される。研究開発費や設備投資の代理変数として見た減価償却費の比率は、補助金をより受けているグループの方が高い。これは補助金が研究開発や設備投資を促進していることを示唆している。

(つづく)Y.H

(出典)経済産業省 通商白書2022
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/index.html