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中国の債務問題 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に経済産業省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■中国の債務問題と金融リスク

①国際的に見た中国の債務水準
中国では、世界金融危機後、非金融企業の債務残高が日本のバブル期を上回る水準まで急速に拡大した。その後、一旦は金融リスクに対処するため圧縮されたものの、コロナショックに際して再び企業債務が拡大しており、直近でGDP比155.5%と極めて高い水準となっている。中国の家計債務も、非金融企業に比べれば水準は低いものの、住宅ローンを中心に急速に拡大してきている。なお、政府債務については日本に比べれば水準は低いが、徐々に拡大してきている。一方で、国際的に比較すると、中国は、非金融企業債務が大きいものの、政府債務は相対的に小さく、企業、家計及び政府の債務を合算した全体で見ると、米国、ユーロ圏の水準と大きな相違はないともいえる。

②社会融資総量と銀行融資
中国の債務の動向を社会融資総量の残高統計を利用して考察する。2020年は新型コロナウイルス感染拡大による経済の落ち込み後、景気浮揚のための金融緩和が進み、社会融資総量の伸びが加速した。翌2021年は、感染が抑えられ経済も回復してきたので、社会融資総量の伸びも次第に抑制されてきたが、年末は景気減速を受けて再び加速に転じた。その寄与度の内訳を見ると、人民元建て融資が堅調に推移しており、インフラ投資のための地方政府特別債は年央に一旦縮小したが、景気減速の中で年末にかけて再び寄与を拡大している。

一方で、当局の監視の目の届きにくく問題の多いシャドーバンキング(信託貸出、委託貸出等)は寄与の縮小が続いている。ここでは、社会融資総量の伸びで大きな寄与をしている銀行融資、地方政府債務を取り上げて詳しく見ていく。まず、中国の銀行融資について不良債権の動きを見る。不良債権は金額ベースで2020年半ば以降はほぼ横ばいで推移している。不良債権比率(不良債権/融資残高)も2020年半ばまで上昇した後は、融資総額拡大の中で低下に向かっている。なお、不良債権とは別に、現段階では借り手に返済能力があるが、将来の返済に懸念要素のある「要注意先」(中国では「関注」と表記)と呼ばれる不良債権予備軍が、不良債権額以上に存在している点には注意が必要である。

③地方政府債務
地方政府の財務構造にはぜい弱な側面が見られる。まず、地方政府は、教育、社会保障・雇用関係を始め、住民生活に密着したサービスの提供を行うために恒常的に大幅な支出超過となっている。このため地方政府自身の税収等は5割程度で、中央政府からの移転に大きく依存する構造となっている。かつて地方政府は借入が禁止されていたため、地方政府融資平台を通じた資金調達を行い、その実態が不明確なため隠れ債務との批判を招いた。現在では、地方債の発行が認められるかわりに、中央政府による上限が設定され、債務実態を明確化して管理する方針へ転換された。その地方債の債務残高は年々増大しており、2014年から2021年までに総額で約2倍、特に景気支援のため公共事業等に充てられる専項債は2.8倍に拡大している。

地方債の残高を地域別に見ると、江蘇省が最大で、山東省、広東省と続くが、地方ごとの経済規模を考慮して、対GDP比で見ると青海省が最も債務が重く、貴州省、内蒙古自治区と、総じて経済発展の遅れている地域の債務が大きい。また、東北地方の債務も大きく、地域別の負担には大きな相違がある。

④不動産と地方財政
さらに地方政府の財政が、土地使用権譲渡収入に大きく依存していることも問題として指摘されている。中央政府からの移転を含めた、地方政府の財政収入は、一般会計が約7割、政府性基金(特別会計に相当)が約3割であるが、その政府性基金収入に占める土地使用権譲渡収入の割合は8割を越えている。近年、土地使用権譲渡収入の増加に伴って、地方政府収入に占めるシェアも上昇した結果、政府収入の約3割が不動産価格に左右される不安定な構造となっている。このような状況下では不動産価格が低下に転じた場合は歳入減に直結する懸念がある。

⑤不動産リスク
その不動産価格についてはバブルの危険性がたびたび指摘されてきた。中国では資金の投資先が限られているため、金融緩和の際に住宅市場に資金流入することが多い。中国の住宅価格の推移を見ると、長期的に上昇してきており、特に一線都市といわれる沿海部の北京、上海、広州、深圳は好景気の時期に住宅価格が大きく上昇し、加熱しすぎれば規制が導入されてきた。また、中国では土地の所有権は国家にあり、不動産からの収入に依存の大きい地方政府が宅地の供給量を調節できることが価格の高止まりを招いているとの指摘もある。

最近の住宅価格を見ると、コロナショック後、景気支援のための金融緩和を受けて住宅価格は上昇基調となった。例えば、図で新型コロナウイルス患者が初めて発見された武漢では2020年前半、住宅価格はほぼ横ばいで推移したが、2020年後半は再び上昇に転じている。特に、北京、上海などの大都市の住宅価格にバブルの懸念が指摘されている。2020年半ば、住宅バブルを懸念した中国政府は不動産会社に3つのレッドラインと呼ばれる規制をかけるとともに、2021年初め、金融機関に対して不動産融資に関する総量規制を導入した。その結果、2021年後半、借入れ等に依存した経営をしていた恒大などの大手不動産会社の資金繰りが悪化した。

資金調達の伸びは、2021年後半に減速しており、特に銀行融資がマイナスに転じているほか、前払い収入も大きく落ち込んでいる。このような不動産会社の資金難を背景に、不動産開発投資は減速を余儀なくされた。2021年始めは2020年の落ち込みの反動から高い伸び(前年同期比)を示していたが、次第に減速した。反動の影響を調整するためにコロナショック前の2019年からの年平均伸び率を見ても、年初はむしろ伸びが加速していたが、反対に年央から減速に転じている。本節冒頭でみたように不動産業、建設業は7-9月期、10-12月期のGDPがマイナスに転じ、中国経済の成長の引下げ要因となっている。住宅価格も、2021年後半からは低下の動きが見られる。北京、上海などは上昇が続いているものの、全国平均は低下に向かっており、地方都市を中心に住宅価格が低下していると見られる。

しかし、既に見たように、地方政府収入は不動産に依存する割合が大きく、地方政府財政への懸念も指摘されている。景気の減速や財政収入減少の中で、地方政府の中には住宅購入規制を緩和する動きも現れている。IMFの中国に関する4条協議報告書によれば、恒大1社に対する融資額はシステミックリスクを起こすものではないが、体力の弱い他の不動産会社にも波及しており、不動産業界への融資は融資総額の7%、住宅ローンは融資総額の21%を占めること、その他の銀行融資のかなりの部分が不動産を担保としていること、銀行は不動産融資を多く持つノンバンクに対する融資も大きいことなどから、より幅広い信用収縮につながる可能性が指摘されている。また、不動産は、バブルや景気という経済的側面とともに、貧富の格差という社会的側面も併せ持っている。中国政府は「住宅は住むものであって投機をするものではない」と繰り返し表明しており、その解決のため不動産税の試験的導入も予定されていたが、その導入には影響も大きく、不動産市場が冷え込む中で、2022年の導入は見送られる方針と報道されている。

(環境規制と電力不足)
中国は第14次五か年計画で、5年間の間に、GDP1単位当たりのエネルギー使用量を13.5%、GDP1単位当たりの二酸化炭素排出量を18%、それぞれ削減するという目標を掲げている。さらに2021年の国連総会において、習近平主席は、2030年までに二酸化炭素排出量のピークアウト、2060年までのカーボンニュートラルを目指すことを宣言した。一方、代表的なエネルギーである電力消費を見ると、2021年は上半期(1-6月)で16.2%増と大きく伸びている。電力消費は製造業が全体の半分を占めるが、特に化学、窯業土石、鉄鋼、非鉄金属でさらにその半分を占めるなど素材産業の電力消費は大きい。

2021年9月、中国各地で政府当局や送配電会社が企業に対して電力使用制限措置を行った。その結果、電力を大量に消費するガラス、セメントなどの素材産業を中心に生産の減少・混乱が生じて、その影響はサプライチェーンを通じて海外へも及んだ。その背景として、電力会社が石炭価格の上昇から採算の合わない石炭火力発電所を停止したことや、中央政府からの電力消費削減指示に対する地方政府の過剰反応等が指摘されている。石炭については供給増加や電力価格の見直し等が行われたが、電力消費については下半期に大幅な削減が図られ、2021暦年では10.3%増まで鈍化した。2021年12月には電力不足はほぼ落ち着いたものの、このような電力不足の経験を踏まえ、2022年3月の全人代ではエネルギー消費量の目標は単年度ごとの厳しい管理でなく柔軟性をもったものとすることが示唆されている。

(所得格差)
中国では、地域間(省別)、都市・農村間、個人間の所得格差が大きいことが指摘されている。ある程度の格差縮小は見られたものの、依然として大きな格差が残っている。地域間で比較すると約4.6倍、都市・農村間で約2.6倍、個人間のジニ係数は0.4を上回って推移している。所得格差は社会不安の一因となりかねないため改善が求められている。また、もし消費性向が高いと考えられる低所得者への所得再分配が実現できれば消費促進を通じて経済成長にもつなげることもできる。このような中、2020年に達成されたと総括された「小康社会」(ややゆとりのある社会)に続く目標として、貧富の格差の是正を目的とした「共同富裕」(ともに豊かになる)という方針が表明されている。その一環で、中国政府は市場を独占する民間企業などへの規制・取締りを強化し、企業の寄付行為も奨励している。また、今後の税制・社会保障改革も示唆されているが、大きな効果が期待される不動産税の実現には長い年月がかかると見られる。

(経済政策)
このような課題が山積する中で、2022年3月、全国人民代表大会(全人代、我が国の国会に相当)が開催され、政策方針が表明された。2022年の経済運営の方針としては経済の安定を最優先し、雇用の安定を図ることを明確にしている。2022年の経済成長率目標は5.5%前後と、2021年よりは引き下げたものの、直近の実績や国際機関等の予測に照らし合わせれば、意欲的な目標といえる。2022年秋の共産党大会を意識したものと指摘されており、その実現のため「積極的な財政政策」と「穏健な金融政策」などを挙げている。また、住民所得の伸びを経済成長率にあわせること、国際収支の均衡、昨年秋の電力不足を踏まえてエネルギーの過剰消費抑制の柔軟化などの方針も示された。

これらを実現するための2022年の施策として、中央政府の財政赤字(GDP比2.8%前後/昨年は3.2%前後)や特別地方債(昨年と同じ3兆6500億元)の規模などが示されたほか、主要分野ごとの重点施策が公表された。その中でサプライチェーンに関しては「製造業のコアコンピタンスを強化する」として、「原材料・重要部品」の安定供給強化が示されるとともに、「国有企業がサプライチェーンの基板力・牽引力を向上させる」として、国有企業の果たす役割の強化が示唆された。経済連携に関してはRCEP活用やWTO改革への積極的関与が示された一方で、CPTPPについては加入申請を行った事実を含め直接的な言及はなかった(2021年の「政府活動報告」では「加入を前向きに検討する」旨の言及)。

(一帯一路)
2013年に初めて提唱された一帯一路構想は、沿線地域の道路、鉄道、港湾、通信等のインフラを整備することで、人、モノ、資金、情報等の流れを拡大することを目指し、中国からの旺盛な投資が行われてきた。中国の対外直接投資額は2016年をピークに縮小したが、一帯一路沿線国向けは堅調に増加しており、西側先進国が多いOECD諸国向けが、金額、シェアともに頭打ちとなる中で対照的な動きとなっている。特に2021年から開始された第14次五か年計画では、中国は、対外開放路線を継続して、中国と協力する意向のある国と連携(国際循環)するとともに、内需を拡大しながら(国内大循環)、巨大市場の魅力により諸外国の投資・技術を引きつける重力場を形成する方針を掲げている。

一帯一路の提唱当初は、インフラ整備とともに、当時生産過剰とされていた鉄鋼等の輸出先になっているとも指摘され、巨額のプロジェクトは途上国の債務問題も惹起し、債務の罠との批判もあった。このような中で、中国は、質の高い発展や持続可能性等も強調するようになり、2017年からは電子決済やAI、量子、ビックデータ、クラウド、スマートシティ建設などで協力をするデジタルシルクロード、2021年からはインフラのグリーン・低炭素化の運用管理、気候変動への考慮や生物多様性に対処する「一帯一路」グリーン発展パートナーシップイニシアティブの提唱も始めている。

(人民元の国際化)
人民元の国際決済への利用が初めて認められたのは、2009年のことであった。国際金融危機後、米ドルの不足から国際決済に支障が生じかねなかったことや為替レートの大幅な変動から為替リスク対策の必要性があったことなどが背景として指摘されている。当初、限られた地域間での貿易取引に適用されたが、次第に経常取引全般、対外・対内直接投資、証券投資に拡大されていった。このような中で、人民元による受払額は財貿易取引を中心に拡大したが、2015年の人民元切下げを契機に中国経済への懸念が高まり、資本流出を抑えるために資本規制が強化されたため、2016年の人民元決済は縮小した。

その後はむしろ、資本取引を中心に拡大している。中国は、世界第一位の輸出規模を持ち、その通貨である人民元は2016年にIMFのSDR構成通貨に認められたものの、国際決済に占める人民元のシェアは、中国の経済規模に比べて必ずしも大きくはない。国際銀行間金融通信協会(SWIFT)によれば、2022年3月の国際決済に占める人民元の割合は2.20%と、米ドル、ユーロ、ポンド、円に次いで五位となっている。その最大の要因として、中国は資本取引に規制が残り、交換可能性に不安があることが指摘されている。また、人民元の国際化は、為替リスク軽減など経済的観点から進められてきたが、米中摩擦の中で政治的・地政学的観点からも見直されてきているとの指摘もある。そのような中で、デジタル通貨による電子決済(デジタル人民元)に向けた取組も行われている。

(つづく)Y.H

(出典)経済産業省 通商白書2022
https://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2022/index.html