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ミッションオリエンテッド型の研究開発 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■社会課題解決のためのミッションオリエンテッド型の研究開発の推進

1.SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)
令和5年度から開始する次期SIPについて、「第6期科学技術・イノベーション基本計画」(令和3年3月26日閣議決定)に基づき、取り組むべき課題について、我が国が目指す将来像(Society5.0)の実現に向けて、バックキャストにより検討を進め、令和3年12月末に課題候補(ターゲット領域)を決定した。各課題候補について、大学、研究機関、企業、ベンチャーなどから幅広く研究開発テーマのアイディアを募るため、令和4年1月から2月までの期間、情報提供依頼、いわゆるRFIを実施した。令和4年3月に、RFIの結果を整理し、プログラムディレクター(PD)候補の募集要件を検討した。

2.ムーンショット型研究開発制度
ムーンショット型研究開発制度は、超高齢化社会や地球温暖化問題など重要な社会課題に対し、人々を魅了する野心的な目標(ムーンショット目標)を国が設定し、挑戦的な研究開発を推進するものである。令和3年度は、既存の7目標において総合知を活用して研究開発を推進するとともに、総合知の活用に向けて目標2、4、5、6で横断的支援(数理科学、ELSI)の公募を実施した。また、コロナ禍による経済社会の変容等を想定し、若手研究者を中心とした多様な研究者による調査研究を基に、新たに2つのムーンショット目標(目標8、目標9)を決定した。

(害虫の飛行パターンをモデル化し3次元位置を予測)
2050年、世界人口の増加に伴い食料需要の増大が予想される中、害虫防除は食料の安定的な生産のための重要な課題となっている。ムーンショット型研究開発制度の目標では、食料生産や消費に関する問題の解決を目指し、「2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球環境でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出する」野心的な目標を掲げ、プロジェクトの研究開発を実施している。そのうちの1つに、「先端的な物理手法と未利用の生物機能を駆使した害虫被害ゼロ農業の実現」のプロジェクトがある。空中をすばやく飛び回る害虫を効率的に駆除することは、既存の防除技術では不可能である。これを可能にする画期的な物理的手法として、害虫を高出力レーザーなどで駆除する技術開発が進められている。その実現にはピンポイントで害虫の位置を把握するとともに、検出から駆除までのタイムラグを解消する必要がある。

プロジェクトでは、代表的な農業害虫であるハスモンヨトウ(ガの一種)の飛翔をステレオカメラにより撮影して3次元の位置を計測し、飛行パターンを調べた。次に、得られた飛行パターンをモデル化し、リアルタイムの画像から数ステップ先(0.03秒先)の位置を1.4cm程度の精度で予測できる方法を新たに開発した。2025年までに、予測した位置にレーザーを照射して害虫を駆除する技術の実用化を目指しており、化学農薬主体の防除法から脱却し、環境への負荷も少ない新しい害虫防除技術の実現が期待される。

3.社会技術研究開発センター
科学技術振興機構社会技術研究開発センターは、少子高齢化、環境・エネルギー、安全安心、防災・減災に代表されるSDGsを含む様々な社会課題の解決や新たな科学技術の社会実装に関して生じる倫理的・法制度的・社会的課題への対応を行うために、自然科学及び人文・社会科学の知見を活用し、多様なステークホルダーとの共創による研究開発を実施している。令和3年度には、新型コロナウイルス感染症による影響など、様々な社会構造の変化により顕在化した社会課題である社会的孤立・孤独の予防に関するプログラムを開始した。

本プログラムでは、社会的孤立の生成プロセスの解明や、新生活に伴う孤独リスクの可視化、孤立・孤独防止に資するコミュニティの醸成に向けた取組等に関する研究開発を推進した。更に、科学技術振興機構社会技術研究開発センターは、社会における課題とその解決に必要な科学技術の現状と可能性などを、多面的な視点から把握・分析し、それらのエビデンスに基づき、合理的なプロセスにより政策を形成するための手法や指標等の研究開発を公募事業によって支援している(令和3年度より第3期)。令和3年度は、令和2年度までに採択された16件に加え、新たに7件を採択し、研究開発と成果の政策実装を推進した。

4.福島国際研究教育機構
福島イノベーション・コースト構想を更に発展させて、研究開発、産業化及び人材育成の中核となる福島国際研究教育機構の新設に向けて、令和3年11月に「国際教育研究拠点の法人形態等について」を復興推進会議で決定し、令和4年2月には福島国際研究教育機構の設立等のための「福島復興再生特別措置法の一部を改正する法律案」を第208回国会に提出した。同年3月には、福島国際研究教育機構の研究開発、産業化、人材育成及び司令塔機能等について具体的な内容を定める「福島国際研究教育機構基本構想」を復興推進会議で決定し、福島国際研究教育機構の設立は令和5年4月とすることとした。同基本構想の中で、福島国際研究教育機構は、我が国の科学技術力の強化を牽引し、イノベーションの創出により我が国の産業競争力を世界最高の水準に引き上げる、世界に冠たる「創造的復興の中核拠点」を目指すこととした。

(社会課題解決のための先進的な科学技術の社会実装)
1.官民研究開発投資拡大プログラム(PRISM)の推進
PRISMは、民間投資の誘発効果の高い領域や研究開発成果の活用による政府支出の効率化が期待される領域に各府省庁施策を誘導すること等を目的に平成30年度に創設したプログラムである。総合科学技術・イノベーション会議が策定した各種戦略等を踏まえ、AI技術領域、革新的建設・インフラ維持管理技術/革新的防災・減災技術領域、バイオ技術領域、量子技術領域に重点化し配分を行ってきており、令和3年度においては、これら4領域の32施策に追加配分を実施した。今後も総合科学技術・イノベーション会議が策定する又は改正された各種戦略等を踏まえ、各府省庁の事業の加速等により、官民の研究開発投資の拡大を目指す。

2.政府事業への先進的な技術の導入
科学技術・イノベーションの成果の社会実装を加速させるよう、政府において率先して先進的な技術の導入を図る政府事業のイノベーション化を推進していくことが重要である。このため、内閣府においては、関係省庁と連携して、公共事業をはじめとして幅広い分野の政府事業のイノベーション化等を推進している。

(知的財産・標準の国際的・戦略的な活用による社会課題の解決・国際市場の獲得等の推進)
1.知的財産戦略及び国際標準戦略の推進
経済のグローバル化が進展するとともに、経済成長の源泉である様々な知的な活動の重要性が高まる中、我が国の産業競争力強化と国民生活の向上のためには、我が国が高度な技術や豊かな文化を創造し、それをビジネスの創出や拡大に結び付けていくことが重要となっている。その基盤となるのが知的財産戦略である。令和3年7月、知的財産戦略本部は、「知的財産推進計画2021」を決定した。

同計画は、コロナ後のニュー・ノーマルの下におけるデジタル化・グリーン化競争を我が国が勝ち抜くため、冒頭部「基本認識」において知財を取り巻く状況について整理した上で、「競争力の源泉たる知財の投資・活用を促す資本・金融市場の機能強化」、「優位な市場拡大に向けた標準の戦略的な活用の推進」、「21世紀の最重要知財となったデータの活用促進に向けた環境整備」、「デジタル時代に適合したコンテンツ戦略」、「スタートアップ・中小企業/農業分野の知財活用強化」、「知財活用を支える制度・運用・人材基盤の強化」、「クールジャパン戦略の再構築」の重点7施策に整理されており、同計画に沿って、知的財産戦略本部の主導の下、関係府省と共に知的財産戦略を推進している。

2.国際標準の戦略的活用への積極的対応
グローバル市場における我が国産業の国際競争力強化のため、我が国官民による国際標準の戦略的な活用を推進する必要がある。このため、まず政府全体として、司令塔機能及び体制を整備し、「統合イノベーション戦略推進会議」に設置した「標準活用推進タスクフォース」の下、関係省庁連携で重点的に取り組むべき施策を推進している。具体的には、関係省庁による重要施策がより進展するよう、PRISMの枠組みを活用した標準活用加速化支援事業を通じて、予算追加配分による支援を行った。

また、スマートシティ、スマート農業等、社会課題の解決や国際市場の獲得等の点で重要な分野等における国際標準の戦略的な活用について、海外政府・企業動向や国際市場環境等を踏まえて推進するとともに、必要な分野を包括的に特定・整理して対応する仕組みの整備を進めている。また、政府の研究開発プロジェクトや規制・制度等との連携等も通じて、国際標準の戦略的活用に係る企業行動の変容を促す環境の整備や、政府系機関等が協働して民間企業等による実践的な活動を支援するプラットフォーム体制の整備等を進めている。具体的には、研究開発段階における標準化活動をより適切に実施するため、新エネルギー・産業技術総合開発機構において、技術戦略策定時や研究開発プロジェクト実施時等の各段階において、標準の戦略的な活用を意識した取組を実施した。また、経済産業省は省エネルギー等に関する国際標準の獲得・普及促進事業委託費(省エネルギー等国際標準開発(国際電気標準分野))制度の1つとして、化合物パワー半導体の品質・信頼性試験法に関する国際標準化を実施している。産業技術総合研究所を中心として、複数の民間企業が参画し一般社団法人電子情報技術産業協会が連携する体制において推進している。

そのほか、戦略的に重要な研究開発テーマや産業横断的なテーマについて、国立研究開発法人や民間企業と連携して国際標準化活動を推進している。そのほか、戦略的に重要な研究開発テーマや産業横断的なテーマについて、国立研究開発法人や民間企業と連携して国際標準化活動を推進するための体制整備を行っている。人材育成施策としては、「標準化人材を育成する3つのアクションプラン」(平成28年度公表)に基づき、国際標準化をリードする若手人材を育成するための研修を実施するとともに、標準化教育に関する大学教員向けの教材等の公開や大学における標準化講義への経済産業省職員派遣などを通じて標準化人材育成を支援するほか、一般財団法人日本規格協会による標準化資格制度を設けている。海外との協力においては、国際標準化活動における欧州及びアジア諸国との連携や、アジア諸国の積極的な参加を促進することを目的とした技術協力を行っている。

令和3年度は、アジア太平洋地域の24か国・地域の標準化機関が集まる会議や、日中韓三か国の標準化機関が参加する会議及びアジア諸国の標準化機関等との二国間会議に参加し、標準化協力分野について議論を行った。また、国際標準化機構(ISO)・国際電気標準会議(IEC)と連携したアジア地域向けの人材育成セミナーを実施したほか、アジア太平洋経済協力(APEC)基準・適合性小委員会では、国際整合化や規格開発・普及のためのプロジェクトを進めるなど、国際標準化活動におけるアジア地域との連携強化に取り組んでいる。総務省は、情報通信審議会等の提言を踏まえ、我が国の情報通信技術(ICT)の国際標準への反映を目指して、研究開発等も実施しながら、国際電気通信連合(ITU)等のデジュール標準化機関や、フォーラム標準化機関における標準化活動を推進している。

令和3年度は、「Beyond 5G 推進戦略」(令和2年6月策定)等を踏まえ、産学官の主要プレイヤーが結集した「Beyond 5G 新経営戦略センター」(令和2年12月18日設立)の下、研究開発初期段階からの戦略的な知財の取得や標準化活動の推進に取り組んでいる。国土交通省及び厚生労働省は、上下水道分野で国際展開を目指す我が国の企業が、高い競争性を発揮できる国際市場を形成することを目的として、戦略的な国際標準化を推進している。現在、「飲料水、汚水及び雨水に関するシステムとサービス」(ISO/TC224)、「汚泥の回収、再生利用、処理及び廃棄」(ISO/TC275)、「水の再利用」(ISO/TC282)等へ積極的・主導的に参画している。

3.特許審査の国際的な取組
日本企業がグローバルな事業展開を円滑に行うことができるよう、国際的な知財インフラの整備が重要である。このため、特許庁は、ある国で最初に特許可能と判断された出願に基づいて、他国において早期に審査が受けられる制度である「特許審査ハイウェイ(PPH)」を45か国・地域との間で実施している(令和4年1月時点)。

また、我が国の特許庁と米国特許商標庁は、日米両国に特許出願した発明について、日米の特許審査官がそれぞれ先行技術文献調査を実施し、その調査結果及び見解を共有した後に最初の審査結果を送付する日米協働調査試行プログラムを平成27年8月1日から実施している。さらに、PCT国際出願について、日米欧中韓の5庁が協働して国際調査報告を作成するPCT協働調査試行プログラムを令和2年6月30日まで実施した。

4.国の研究開発プロジェクトにおける知的財産(知的財産権・研究開発データ)マネジメント
(1)特許権等の知的財産権に関する取組
経済産業省は、国の研究開発の成果を最大限事業化に結び付けるため、「委託研究開発における知的財産マネジメントに関する運用ガイドライン」(平成27年5月)に基づき、国の委託による研究開発プロジェクトごとに適切な知的財産マネジメントを実施している。農林水産省は、農林水産分野に係る国の研究開発において、「農林水産研究における知的財産に関する方針」(平成28年2月)に基づき、研究の開始段階から研究成果の社会実装を想定した知的財産マネジメントに取り組んでいる。

(2)研究開発データに関する取組
経済産業省は、研究開発データの利活用促進を通じた新たなビジネスの創出や競争力の強化を図るため「委託研究開発におけるデータマネジメントに関する運用ガイドライン」(平成29年12月)に基づき、平成30年3月より、ナショプロデータカタログに利活用可能な研究開発データを掲載している。

5.特許情報等の整備・提供
特許庁は、工業所有権情報・研修館が運営する「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」や、「外国特許情報サービス(FOPISER)」を通じて、我が国の特許情報及び、我が国のユーザーからのニーズが大きい諸外国の特許情報を提供している。そのほか、工業所有権情報・研修館では、企業や大学、公的試験研究機関等が実施許諾又は権利譲渡の意思を持つ「開放特許」「リサーチツール特許」の情報を収録したデータベースサービスを提供している。

6.早期審査の実施
特許庁は、特許の権利化のタイミングに対する出願人の多様なニーズに応えるため、一定の要件の下に、早期に審査を行う「早期審査」を実施している。

7.特許審査体制の整備・強化
特許庁は、令和3年度においても、任期満了を迎えた任期付審査官の一部を再採用するなど、審査処理能力の維持・向上のため、引き続き審査体制の整備・強化を図った。

8.事業戦略対応まとめ審査の実施
特許庁は、知的財産戦略に基づいた出願に対応するための審査体制について検討を進め、事業で活用される知的財産の包括的な取得を支援するため、国内外の事業に結び付く複数の知的財産(特許・意匠・商標)を対象として、分野横断的に事業展開の時期に合わせて審査・権利化を行う「事業戦略対応まとめ審査」を実施している。

9.技術動向調査の実施・公表
研究開発戦略と知的財産戦略との連携が求められている中、特許庁は、新市場の創出が期待される分野、国の政策として推進すべき技術分野を中心に、特許出願動向等を調査し、その結果を公表している。

10.専門家による知財活用の支援
特許庁は、大学において権利化されていない優れた研究成果の発掘等を支援する「知財戦略デザイナー派遣事業」を実施している。また、工業所有権情報・研修館を通じて、競争的な公的資金が投入された研究開発プロジェクトを推進する大学や研究開発コンソーシアム等を支援する「知的財産プロデューサー派遣事業」や、事業化を目指す産学連携活動を展開する大学を支援する「産学連携知的財産アドバイザー派遣事業」も実施している。

令和3年度は、知財戦略デザイナー16名を20大学に、知的財産プロデューサー21名を54プロジェクトに、産学連携知的財産アドバイザー10名を18大学に派遣した。農林水産省は、国の研究事業等において、大学、国立研究開発法人、公設試験場等が連携して実施する研究計画の作成支援を行うため、知的財産の戦略的活用など技術経営(MOT)的視点の導入も含め、全国に約140人の農林水産・食品産業分野を専門とするコーディネーターを配置している。

11.技術情報の管理に関する取組
平成30年5月に成立した改正産業競争力強化法において、事業者が保有する重要情報の適切な管理に対し国が認定した機関から認証を受けることができる「技術情報管理認証制度」を創設した(令和4年3月末現在、6件の機関を認定)。令和3年度は、適切な技術情報管理の構築に向けたアドバイス等を行う専門家の派遣(90回派遣)や、制度に関心の高い業界団体等との連携、研修素材・パンフレットの作成、メールマガジンの配信による広報活動等に加え、制度の普及・改善に向けた有識者会議等(検討会4回、WG3回)を開催した。

12.研究成果の権利化支援と活用促進
科学技術振興機構は、優れた研究成果の発掘・特許化を支援するために、一貫した取組を進めている。具体的には、「知財活用支援事業」において、大学等における研究成果の戦略的な外国特許取得の支援、各大学等に散在している特許権等の集約・パッケージ化による活用促進を実施するなど、大学等の知的財産の総合的活用を支援している。

(つづく)Y.H

(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書 
科学技術・イノベーション白書