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科学技術外交の推進 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■科学技術外交の戦略的な推進

(科学技術外交の戦略的な推進)
グローバル化が進展する中で、我が国の科学技術・イノベーションを推進するとともに、その成果を活用し、国際社会における我が国の存在感や信頼性を向上させるため、科学技術・イノベーションの国際活動と外務省参与(外務大臣科学技術顧問)を通じた取組を含む科学技術外交を一体的に推進していくことが必要である。

(1)国際的な枠組みの活用

ア 主要国首脳会議(サミット)関連活動
2008年(平成20年)、当時の議長国であった我が国の発案により、G8科学技術大臣会合が当時の岸田文雄・内閣府特命担当大臣(科学技術政策)の主催で開催された。以後、2013年(平成25年)英国、さらには2015年(平成27年)ドイツ、2016年(平成28年)日本(茨城県つくば市)、2017年(平成29年)イタリア、2020年(令和2年)米国、2021年(令和3年)英国と定期的に開催されている。同会合は、内閣府特命担当大臣(科学技術政策)と諸外国の閣僚との政策協議等を通じて、科学技術を活用した地球規模の諸問題等への対処、諸外国と連携した科学技術政策を巡る国際的な議論への主体的な貢献等を開催目的としている。2021年(令和3年)7月には、英国主催によりオンライン開催され、6月に発出された首脳宣言の附属文書「G7研究協約」を踏まえ、国際研究協力の重要性や、直面する課題について連携して取り組んでいく方針を確認した。

2008年(平成20年)の会合での議論を踏まえ設立された国際的研究施設に関する高級実務者会合(GSO)については、国際的な研究施設に関する情報共有や国際協力に係る枠組み等について検討が行われている。気候中立実現のための戦略研究ネットワーク(2021年、低炭素社会国際研究ネットワークから名称変更)は、2021年12月、「気候中立で持続可能な社会実現に向けた行動を加速する」をテーマに年次会合を開催した。同年次会合では2つの基調講演と、産業の脱炭素化、雇用、国際協力、ファイナンスについて4つのテーマ別セッションが実施され、2日間で23か国・地域からのべ140名の専門家・研究者が参加した。なお、同ネットワークには、2022年(令和4年)現在、我が国を含む7か国17の研究機関が参加している。

イ アジア・太平洋経済協力(APEC)
APEC科学技術イノベーション政策パートナーシップ(PPSTI)は、共同プロジェクトやワークショップ等を通じたAPEC地域の科学技術・イノベーション推進を目的に開催されており、2021年(令和3年)8月に第18回会合が、2022年(令和4年)2月に第19回会合がオンラインで開催され、PPSTIの活動計画等について議論が行われた。

ウ 東南アジア諸国連合(ASEAN)
我が国とASEAN科学技術イノベーション委員会(COSTI)の協力枠組みとして、日・ASEAN科学技術協力委員会(AJCCST)が毎年開催されており、我が国では文部科学省を中心として対応している。2018年(平成30年)のAJCCST-9で合意された「日ASEANSTI for SDGsブリッジングイニシアティブ」の下、日ASEAN共同研究成果の社会実装を強化するための協力を継続している。

エ その他
1)アジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)
我が国は、アジア・太平洋地域での宇宙活動、利用に関する情報交換並びに多国間協力推進の場として、1993年(平成5年)から毎年1回程度、APRSAFを主催しており、13か国60名が参加した第1回から、第27回(2021年(令和3年))には48か国・地域、2国際機関から約843名が参加登録する同地域最大規模の宇宙関連会議となっている。第27回は、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、オンラインで開催したが、現地開催とほぼ同様、若しくはそれ以上の参加が得られ、同地域においてAPRSAFが安定的な求心力があることが窺われた。また、再編された分科会やワークショップでは、外部専門家と連携することで多様な観点で活発に議論された。

2)生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学‐政策プラットフォーム(IPBES)
生物多様性と生態系サービスに関する動向を科学的に評価し、科学と政策のつながりを強化する政府間のプラットフォームとして2012年(平成24年)4月に設立された政府間組織である。加盟国等の参加によるIPBES総会第8回会合が2021年(令和3年)6月にオンラインで開催された。

3)地球観測に関する政府間会合(GEO)
2015年(平成27年)11月に開催された閣僚級会合で承認された「GEO戦略計画2016-2025」に基づき、「全球地球観測システム(GEOSS)」の構築を推進する国際的な枠組みであり、2022年(令和4年)3月時点で253の国及び国際機関等が参加している。2021年(令和3年)11月にアジア・オセアニア地域を対象とした第14回AOGEOシンポジウムを我が国主導で開催し、研究者や実務者がこれまでの取組の紹介や意見交換などを行い、アジア・オセアニア地域特有の社会課題の解決に向けた、共通認識や今後の活動を記した「アジア・オセアニアGEO宣言2021」を採択した。

4)気候変動に関する政府間パネル(IPCC)
気候変動に関する最新の科学的知見について取りまとめた報告書を作成し、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることを目的として、1988年(昭和63年)に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により設立された。2021年(令和3年)8月に第6次評価報告書第1作業部会報告書、2022年(令和4年)2月に同第2作業部会報告書が公表された。

5)Innovation for Cool Earth Forum(ICEF)
ICEFは、地球温暖化問題を解決する鍵である「イノベーション」促進のため、世界の産学官のリーダーが議論するための知のプラットフォームとして、2014年(平成26年)から毎年開催している国際会議である。2021年(令和3年)10月6~7日、オンライン開催された第8回年次総会では、「Pathways to Carbon Neutrality by 2050:Accelerating the pace of global decarbonization」をメインテーマに掲げ、2050年のカーボンニュートラルに向けた具体的かつ現実的な議論に焦点が置かれた。2日間の会合を通じ、各国政府機関、産業界、学界、国際機関等の約87か国・地域から2,000名以上が参加した。

6)Research and Development 20 for Clean Energy Technologies(RD20)
RD20は、二酸化炭素大幅削減に向けた非連続なイノベーション創出を目的として、G20各国の研究機関からリーダーを集めた国際会議である。令和3年(2021年)10月にオンライン開催された第3回会合では、カーボンニュートラルの実現に向けて議論した成果をリーダーズステートメントとして発表するとともに、共同プロジェクトの創出を目指したタスクフォース活動を開始した。

7)北極科学大臣会合(ASM)
第3回北極科学大臣会合(ASM3)を、日本とアイスランドの共催により、令和3年(2021年)5月8日(土)~9日(日)にアジアで初となる東京で開催した。本会合は、北極における研究観測や主要な社会的課題対応の推進等を目的とした閣僚級会合であり、「持続可能な北極のための知識」をテーマに参加国・団体が議論を行い、北極域の科学分野の国際連携の推進、北極域の理解の加速と、北極域における政策決定の基になる科学の支援に関する共同声明を取りまとめた。

8)グローバルリサーチカウンシル(GRC)
世界各国の主要な学術振興機関の長による国際会議であるGRC第9回年次会合が、2021年(令和3年)5月24日(月)~28日(金)に、南アフリカ国立研究財団(NRF)と英国UKリサーチ・イノベーション(UKRI)の共同主催によりダーバン(南アフリカ)を主催地としてオンラインで開催され、71カ国から70機関の長等が出席し、研究支援を取り巻く課題と学術振興機関が果たしていくべき役割について議論を交わした。

(2)国際機関との連携

ア 国際連合システム(UNシステム)
1)持続可能な開発目標のための科学技術
イノベーション(「STI for SDGs」)
国連機関間タスクチーム(UN-IATT)が、世界各国でSTI for SDGsロードマップの策定を促進させるために2019年(令和元年)に開始した「グローバル・パイロット・プログラム」パートナー国として、我が国は2020年度(令和2年度)より世界銀行への拠出を通じてケニアの農家へのデジタル金融サービス(DFS)の提供を推進するための支援を行い、2021年度(令和3年度)にはケニア政府に対してDFSに関するエコシステム構築に向けたロードマップを提案した。また、開発途上国での社会的課題・ニーズを把握する取組を実施している国連開発計画(UNDP)への拠出を通じて、現地で求められるニーズを踏まえて我が国の企業等が事業化を検討する「Japan SDGs Innovation Challenge for UNDP Accelerator Labs」を2020年(令和2年)より実施している。2021年度(令和3年)には、新たに3か国の課題について、日本のステークホルダーによる解決策と事業化の検討を開始した。さらに、2019年度(令和元年度)より実施してきたSTI for SDGsプラットフォームの構築に関する委託調査により、世界食糧計画(WFP)の協力の下で開発途上国である4か国の課題を現地関係者と日本企業等からの参加者が協働で分析し、解決方法や事業化を検討するプログラムを開発・実証し、その成果と運用マニュアルを作成し公開した。

2)国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)
我が国は、国連の専門機関であるユネスコの多岐にわたる科学技術分野の事業活動に積極的に参加協力をしている。ユネスコでは、政府間海洋学委員会(IOC)、政府間水文学計画(IHP)、人間と生物圏(MAB)計画、ユネスコ世界ジオパーク、国際生命倫理委員会(IBC)、政府間生命倫理委員会(IGBC)等において、地球規模課題解決のための事業や国際的なルール作り等が行われている。我が国は、ユネスコへの信託基金の拠出等を通じ、アジア・太平洋地域等における科学分野の人材育成事業や持続可能な開発のための国連海洋科学の10年(2021年(令和3年)~2030年(令和12年))に関する支援事業等を実施しており、また、各委員会へ専門委員を派遣し、議論に参画するなど、ユネスコの活動を推進している。また、2021年(令和3年)11月の第41回ユネスコ総会で採択されたオープンサイエンスに関する勧告及びAIの倫理に関する勧告については、勧告策定のための諮問委員会や地域コンサルテーション、政府間委員会に我が国の専門家を派遣するなど、様々な貢献を果たした。

3)持続可能な開発のための国連海洋科学の10年(2021-2030)
持続可能な開発のための国連海洋科学の10年とは、海洋科学の推進により、持続可能な開発目標(SDG14等)を達成するため、2021~2030年(令和3年~令和12年)の10年間に集中的に取組を実施する国際枠組みである。2021年(令和3年)1月から開始されている。実施計画では、10年間の取組で目指す社会的成果として、きれいな海、健全で回復力のある海、予測できる海、安全な海、持続的に収穫できる生産的な海、万人に開かれ誰もが平等に利用できる海、心揺さぶる魅力的な海の7つが掲げられており、そのために、海洋汚染の減少や海洋生態系の保全から、海洋リテラシーの向上と人類の行動変容まで10の挑戦課題に取り組むこととされている。我が国は、これらの社会的成果への貢献を目指し、2021年(令和3年)2月に発足した国内委員会等の枠組みを通じて関係省庁・機関を含む産官学民の連携を促進し、国内・地域間・国際レベルにおいて様々な取組を推進している。

イ 経済協力開発機構(OECD)
OECDでは、閣僚理事会、科学技術政策委員会(CSTP)、デジタル経済政策委員会(CDEP)、産業・イノベーション・起業委員会(CIIE)、原子力機関(NEA)、国際エネルギー機関(IEA)等を通じ、加盟国間の意見・経験等及び情報の交換、人材の交流、統計資料等の作成をはじめとした科学技術に関する活動が行われている。CSTPでは、科学技術政策に関する情報交換・意見交換が行われるとともに、科学技術・イノベーションが経済成長に果たす役割、研究体制の整備強化、研究開発における政府と民間の役割、国際的な研究開発協力の在り方等について検討が行われている。また、CSTPには、グローバル・サイエンス・フォーラム(GSF)、イノベーション・技術政策作業部会(TIP)、バイオ・ナノ・コンバージング・テクノロジー作業部会(BNCT)及び科学技術指標各国専門家作業部会(NESTI)の4つのサブグループが設置されている。

1)グローバル・サイエンス・フォーラム(GSF)
GSFでは、地球規模課題の解決に向けた国際連携の在り方等が議論されている。2021年(令和3年)は、プロジェクトの成果として「危機時の科学動員」、「大型研究基盤(VLRIs)」、「グローバルな研究エコシステムにおけるインテグリティとセキュリティ」、「将来の研究人材」のプロジェクトを実施している。

2)イノベーション・技術政策作業部会(TIP)

TIPでは、科学技術・イノベーションを政策的に経済成長に結び付けるための検討を行っており、2020年(令和2年)は、産学官及び市民参加の共創、持続的かつ包摂的な成長のためのイノベーション政策等について議論を行った。

3)バイオ・ナノ・コンバージング・テクノロジー作業部会(BNCT)
BNCTは、バイオテクノロジーを有効に活用し、持続可能な経済成長や人類の繁栄に役立てるための政策提言や、ナノテクノロジーの波及効果、研究と研究インフラの国際化などのプロジェクトを進めている。

4)科学技術指標各国専門家作業部会(NESTI)
NESTIは、統計作業に関して監督・指揮・調整等を行うとともに、科学技術・イノベーション政策の推進に資する指標や定量的分析の展開に寄与している。具体的には、研究開発費や科学技術人材等の科学技術・イノベーション関連指標について、国際比較のための枠組み、調査方法や指標の開発に関する議論等を行っている。

ウ 国際科学技術センター(ISTC)
ISTCは、旧ソ連邦諸国における大量破壊兵器開発に従事していた研究者・技術者が参画する平和目的の研究開発プロジェクトを支援することを目的として、1994年(平成6年)3月に設立された国際機関であり、現在では旧ソ連圏に限らず広い地域で科学者の従事する研究活動等を支援し、日本、米国、EU、韓国、ノルウェーが資金を拠出している。

(3)研究機関の活用
ア 東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)
ERIAは、東アジア経済統合の推進に向け政策研究・提言を行う機関であり、「経済統合の深化」、「開発格差の縮小」及び「持続可能な経済成長」を3つの柱として、イノベーション政策等を含む幅広い分野にわたり、研究事業、シンポジウム事業及び人材育成事業を実施している。

(4)科学技術・イノベーションに関する戦略的国際活動の推進
我が国が地球規模の問題解決において先導的役割を担い、世界の中で確たる地位を維持するためには、科学技術・イノベーション政策を国際協調及び協力の観点から戦略的に進めていく必要がある。文部科学省は、2008年度(平成20年度)より地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)を実施し、我が国の優れた科学技術とODAとの連携により、アジア等の開発途上国と、環境・エネルギー、生物資源、防災、感染症分野において地球規模の課題解決につながる国際共同研究を推進している。また、2009年度(平成21年度)より、「戦略的国際共同研究プログラム(SICORP)」を実施し、戦略的な国際協力によるイノベーション創出を目指し、省庁間合意に基づくイコールパートナーシップ(対等な協力関係)の下、相手国・地域のポテンシャル・分野と協力フェーズに応じた多様な国際共同研究を推進している。

さらに、2014年度(平成26年度)より「日本・アジア青少年サイエンス交流事業(さくらサイエンスプラン)」を実施し、アジアを中心とする国・地域の青少年の日本の最先端の科学技術への関心を高めるとともに、海外の優秀な科学技術イノベーション人材の将来の獲得に資するため科学技術分野での海外との青少年交流を促進してきた。令和3年度からは「国際青少年サイエンス交流事業(さくらサイエンスプログラム)」と名称を改め、対象を世界の国・地域の青少年に拡大するとともに、自然科学分野に加えて人文・社会科学分野の交流も対象としている。環境省は、アジア太平洋地域での研究者の能力向上、共通の問題解決を目的とする「アジア太平洋地球変動研究ネットワーク(APN)」を支援している。2021年(令和3年)2月には第24回政府間会合等が開催され、更なる活動の展開に向けた第5次戦略計画が採択された。また、アジア地域の低炭素成長に向け、最新の研究成果や知見の共有を目的とする「低炭素アジア研究ネットワーク(LoCARNet)」の第9回年次会合を2021年(令和3年)3月にオンラインで開催した。

(つづく)Y.H

(出典)
文部科学省 令和4年版科学技術・イノベーション白書 
科学技術・イノベーション白書