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デジタル化による生活サービス提供機能の向上 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■令和5年版 国土交通白書

(はじめに)
近年、デジタル化は急速に進展しており、国際社会や企業活動、そして一人ひとりのライフスタイルに至るまで、ありようを変化させている。また、人口減少による地域の足の衰退や担い手不足、気候変動に伴う災害の激甚化・頻発化、脱炭素化等が大きな課題となっている。技術の進歩は、これまでも私たちの生活や経済社会を大きく変革してきたが、デジタル化の特性を踏まえて効果的に取り込むことにより、直面する課題を解決し、豊かな暮らしと社会を実現することが重要である。

このような中、デジタル庁の発足(2021年9月)、デジタル社会の実現に向けた重点計画の策定(2022年6月)、デジタル田園都市国家構想総合戦略の策定(同年12月)等、政府はデジタル化の取組みを進めている。とりわけ、国民の生命・財産を守る防災、日々の生活に密着した交通・まちづくり、暮らしや社会を支える物流・インフラ、そして行政手続のデジタル化など、「国土交通分野のデジタル化」は、持続可能で活力ある豊かな暮らしと社会を形作る上で必要不可欠であり、その取組みの加速化にあたって、同分野のデジタル化の動向や今後の展望について考察することが肝要である。

こうした背景を踏まえ、令和5年版国土交通白書では、「デジタル化で変わる暮らしと社会」をテーマとし、国土交通分野のデジタル化の動向について現状を俯瞰するとともに、同分野のデジタル化により実現を図る豊かな暮らしと社会を展望する。まず、直面する課題とデジタル化の役割を分析するとともに、行政や企業等の取組みとともに意識調査の結果を取り上げながら、デジタル実装の現在地と今後への期待について整理する。その上で、豊かな暮らしと社会の実現に向けて、国土交通省のデジタル化施策の方向性を示すとともに、デジタル化で変わる「新しい暮らしと社会の姿」を展望する。
後半は国土交通行政の各分野の動向を政策課題ごとに報告する。

■デジタル化で変わる暮らしと社会
(国土交通分野のデジタル化)
国土交通分野のデジタル化の動向について現状を俯瞰すべく、まず、直面する課題とともに、それらの解決を図るにあたってデジタル化に期待される役割を整理するとともにデジタル実装の現在地と今後への期待について、デジタル田園都市国家構想と国土交通分野における取組みを中心に記述する。

(直面する課題とデジタル化の役割)
我が国の社会経済の課題解決に向けて、これまでの取組みを一層強化するとともに、急速に進展するデジタル技術を取り込み、新たな方策を講じていくことが重要である。その際、デジタル化をやみくもに推進するのではなく、直面する課題を明確にした上で、デジタル化の特性を踏まえつつ取り組んでいくことが必要である。ここでは、直面する社会経済の課題について国土交通分野を中心に整理するとともに、デジタル化の役割について以下の5つの観点から整理する。
具体的には、
1.暮らしを支える生活サービス提供機能の維持・向上
2.競争力の確保に向けた新たな付加価値・イノベーションの創出
3.担い手不足の解消に資する生産性向上・働き方改革の促進
4.災害の激甚化・頻発化に対応する防災・減災対策の高度化
5.脱炭素社会の実現に向けたエネルギー利用の効率化
の順に記述する。

1.暮らしを支える生活サービス提供機能の維持・向上
(1)社会経済の課題
①人口減少の加速化と生活サービス提供機能の低下・喪失のおそれ
我が国では人口減少・少子高齢化が進行しており、今後、地方都市の人口減少の加速化が見込まれる。2050年時点における市区町村の人口減少率の推計によれば、人口規模が小さい市区町村ほど人口減少率が高くなる傾向にあるとともに、人口10万人以上30万人未満の市区町村に居住する人口についても約2割減少することが見込まれている。今後、人口減少の大波は、これまでの小規模都市のみならず、地方において日常生活の中心的な役割を担う中規模都市へも拡大することが見込まれ、暮らしを支える中心的な生活サービス提供機能の低下・喪失が懸念される。

②地域の足の衰退と買物弱者の懸念
(買い物や公共交通の利便性への重要度の高さ)
暮らしを支える生活サービスが多岐にわたる中、ここでは、まず暮らしや生活環境に対し、人々が重要視している項目や満足している項目を見ていく。国土交通省では国民の意識に関する調査(以下、国土交通省「国民意識調査」)を実施し、居住する地域での暮らしや生活環境に関する10項目について重要度をたずねたところ、「自然災害等に対する防災体制」に加え、「日常の買い物の利便性」、「公共交通の利便性」について「とても重要である」と答えた人が4割を超えており、「やや重要である」と答えた人を含めると8割を超えた。防災体制に加え、買い物や公共交通の利便性が重視されていることがうかがえる。一方、満足度については、公共交通の利便性について、「全く満足していない」と答えた人が約1割となっており、他の項目より高かった。

(高齢者等の買い物等の移動手段として必要とされる公共交通)
前述の暮らしや生活環境に関する10項目に関する重要度と満足度について、調査結果を年代別で見ると、高齢者(60歳以上)ほど公共交通の重要度が高いものの、満足度は低い結果となった。また、国土交通省「国民意識調査」では、移動手段が減少して困ることについてたずねたところ、「買い物」、「通院」と答えた人の割合が高かった。年代別で見ると、高齢者ほどその傾向がより一層強く、高齢者の買い物・通院の移動手段として公共交通が欠くことができないことがうかがえる。これに関連し、食料品アクセス困難人口の推計結果(農林水産省)によると、65歳以上の4人に1人の割合でアクセス困難者(店舗まで500m以上かつ自動車利用困難な65歳以上高齢者)が存在するとの推計もあり、その割合は三大都市圏より地方圏で高くなっているとともに、三大都市圏では、その伸び率が全国より高くなっているとの指摘もある。

(地域の足の衰退に伴う買物弱者の増加の懸念)
前述の通り、暮らしを支える生活サービス提供機能のうち、人々が買い物や公共交通の利便性を重視しており、特に高齢者の日々の生活において地域公共交通が欠かせないものであることがうかがえた。一方で、近年、地域公共交通の維持が特に地方圏において困難化している。我が国の人口は近年減少しているが、都市圏別に見ると、2000年と比較して、三大都市圏では増加傾向にある一方、三大都市圏以外では減少している。

地域公共交通のうち、乗合バスについて見ると、輸送人員は、2000年度と比較して、三大都市圏では2019年度まで増減があり、2020年度はコロナ禍の影響により3割弱減少した。地方圏における人口減少等に伴い、三大都市圏以外については2000年度以降、輸送人員の減少傾向が続き、2019年度には3割弱、2020年度にはコロナ禍の影響もあって約5割減少しており、極めて厳しい状況となった。乗合バス事業者の収支については、コロナ禍以前は、赤字率が約7割であったが、コロナ禍で一層深刻化した。地域の足を支える乗合バスについて、特に人口減少が進展する三大都市圏以外で、輸送人員の減少、収支の悪化といった厳しい状況にあり、今後人口減少が進む中、その維持がさらに困難となることが想定される。このままの状況が続けば、暮らしを支える生活サービス提供機能の低下・喪失のおそれがあり、買物弱者の増加などが懸念される中、地域の足の確保が課題である。

(鉄道・電車利用率と人口密度の関係)
また、地域公共交通のうち、鉄道について、総務省「令和2年国勢調査」に基づき人口集中地区における人口密度と「鉄道・電車利用率」との関係について見ると、人口密度が高い地域において「鉄道・電車利用率」が高い傾向にあり、人口密度が低い地域において、「鉄道・電車利用率」が低い傾向にある。これまで人口増加局面において、モータリゼーションとともに都市の郊外部などへの拡散が進行した一方、今後、人口減少加速化が見込まれる中、鉄道・電車利用率や人口密度からの観点など公共交通・まちづくり一体となった視点も必要である。

③都市における課題
(都市における暮らしや生活環境)
前述の国土交通省「国民意識調査」の居住する地域での暮らしや生活環境に関する10項目について、重要度と満足度を都市規模別に見ると、特に「公共交通の利便性」での満足度が都市規模による差が大きく、都市規模が大きいほど重要度とともに満足度が高く、その他の多くの項目でも都市部において満足度が相対的に高かった。暮らしや生活環境の面で、都市部の人々は、相対的に満足していることがうかがえる。

(都市の公共交通機関における利便性)
前述の通り、都市規模が大きいほど公共交通の利便性に対する満足度は高い一方、都市の公共交通機関においても利便性や混雑緩和などの課題がある。例えば、複数の鉄道事業者が乗り入れている結節駅では、列車の行き先表示や列車種別が多様化・複雑化しており、乗り入れる鉄道事業者ごとに車内の路線図が統一されていないなど、鉄道利用者にとっては、わかりにくい運行サービスとなっている場合がある。国土交通省が実施した鉄道利用者を対象とした意識調査(2022年2月実施)で、駅の案内サイン・案内ツールにおける利用頻度と利用しやすさについてたずねたところ、回答者平均と比べて、駅利用時に支援・介助を伴う人の方が、「乗り換えアプリ」や「地図アプリ」などデジタル技術に関するものをはじめとして、利用しやすい、また、高い頻度で利用していると答えた割合が高かった。また、利用者がより自主的に、正しく混雑を回避して公共交通機関を利用するよう行動変容を促すためには、利用者側の判断に必要となる混雑情報等を積極的に提供していくことが重要である。例えば、公共交通機関のリアルタイム混雑情報提供、バリアフリー移動経路案内など、利用者一人一人に個別化された情報提供を行うことが必要である。

(都市の災害への脆弱性)
我が国における少子高齢化の進行に伴い、高齢人口(65歳以上の人口)が増加する地域での災害に対する脆弱性が懸念される中、高齢人口の将来推計を都市規模別に見ると、人口規模の大きい都市で高齢人口の増加率が高い。また、都市部において、地震時等に著しく危険な密集市街地が集中しており、防災・居住環境上の課題を抱えている。都市部居住者の高齢化に伴い、今後、地域防災力が低下することも懸念される中、防災公園や周辺市街地の整備改善などのハード対策に加え、ソフト対策なども含めたまちづくり全体での対策が課題である。

(つづく)Y.H

(出典)
国土交通省 令和5年版国土交通白書
令和5年版国土交通白書