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災害に対応する防災・減災対策の高度化 | ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に文部科学省の白書を参考に各種有用な情報をお届けします。

■災害の激甚化・頻発化に対応する防災・減災対策の高度化
(1)社会経済の課題
①災害の激甚化・頻発化
(災害の激甚化・頻発化に伴う甚大な被害の発生)近年、災害の激甚化・頻発化により、甚大な被害が発生している。特に、「令和元年東日本台風」は全国各地に被害をもたらしており、2019年度の氾濫危険水位を超過した河川数は、403件と対2014年度比で約5倍に増加するなど、近年、洪水による被害が増加している。今後、気候変動に伴い災害リスクが更に高まっていくことが懸念される中、ハード・ソフト一体となった防災・減災対策が重要である。また、我が国は、人口の約3割が65歳以上の高齢社会であり、要配慮者(障がい者・要介護者・未就学児等)の安全・迅速な避難への対策が課題である。東日本大震災や近年の豪雨災害では、人的被害(死者)に占める60歳以上の割合が高かった。また、「令和2年7月豪雨」では、社会福祉施設(特別養護老人ホーム)の浸水被害が発生し、人的被害(死者14名)が生じた。防災・減災対策の主流化を図り、災害による被害を受けやすい要配慮者を含め、誰一人取り残さないための対策が求められる中、一人ひとりのニーズに応じたきめ細やかな対応が必要である。

(デジタル活用に対するニーズ)
国土交通省「国民意識調査」において、防災対策・災害時の対応に関する項目について、重要度と満足度をたずねたところ、堤防やダム等の整備、災害時の輸送機関の確保、住まいの再建などハード面の対策に加え、気象情報の高度化、災害予測や被災状況等の情報収集手段、避難訓練・計画等の高度化といったソフト面の対策に対しても重要である(とても重要である、やや重要である)と答えた人の割合が高かった。また、満足度については、堤防やダム等の整備に対する満足度が相対的に高く、一定程度の施策効果がうかがえる一方で、「SNS等を通じた情報発信」、「災害リスク情報の整備・高度化(3D、アニメーションによるグラフィック化など)」といったソフト面での対策に対する満足度は相対的に低い水準にとどまっており、デジタル技術を活用した一層の対策が求められていることがうかがえる。

(リスクコミュニケーションの不足)
浸水被害や土砂災害等を未然に防ぐべく治水対策を行うに当たって、リスクコミュニケーションが不足していては、対策への理解や円滑な実施が叶わない。水災害等リスク情報の充実により住民・企業等の危機感を醸成するとともに、治水対策の効果を明示し、上流下流を含むあらゆる関係者でリスクコミュニケーションを図ることが重要である。リスクコミュニケーションの円滑化のためには、その基盤となるリスク情報のオープン化やデジタルツールなどの環境整備を進めていくことが必要であり、関係者間での協働に向けて、デジタル化を通じ、災害リスクを抱える地域におけるリスクコミュニケーションを促し、合意形成を強化していくことが求められる。

(防災・減災対策に資する技術・サービス開発の必要性)
激甚化・頻発化する災害に対応し、防災・減災対策を飛躍的に向上させていくためには、従来の行政の対応のみでは限界があり、デジタル技術を活用した情報分野での取組みが必要不可欠である。例えば、河川情報等のオープンデータ化とともにデジタルツインが整備されることで、避難行動を促す新たなサービスや洪水予測技術が開発されることも考えられ、官民連携により技術・サービス開発を促進していくことが求められる。

②情報収集・伝達を取り巻く環境の変化
(SNSの利用率の高まり)
近年、スマートフォンやタブレットの普及が進み、SNSの利用率が全世代で高まっている。

(デジタル技術を活用した防災情報の取得に対する関心の高まり)
国土交通省「国民意識調査」で、デジタル化により可能となる暮らしの実践状況についてたずねたところ、「携帯やインターネットで防災情報・災害情報を常に受け取れる」ことを実践している(すでに積極的に実践している、ときどき実践している)と答えた人は半数を超え、実践したことはないが取り入れたい人は3割となった。年代別では、20代で実践している割合は4割、60代は6割強、70代は7割弱など、高齢者ほど実践している人の割合が高かった。デジタル技術を活用した防災情報・災害情報の取得に対する関心の高さがうかがえる。SNSの利用率の高まりや防災情報の取得に対する関心の高さがうかがえる中、災害予測や被災状況、避難行動に関する情報収集・伝達にまつわる環境は変化している。従来の伝達手段であるテレビ・ラジオのみならず、利用者が増加しているSNSや、デジタル技術を活用することで、より効果的な情報伝達が期待される。

(1)デジタル化の役割
激甚化・頻発化する自然災害に対し、デジタル化を通じた防災・減災対策の高度化により対応していくことが求められる。

①防災・減災対策の高度化
(人に優しいデジタル防災)
防災は、生活に密接に関連するとともに、行政と民間が支える準公共の分野であり、住民一人ひとりが災害時に的確な支援を受けることができ、誰もがデジタル化により安全・安心な暮らしを享受できるよう、人に優しいデジタル防災に向けた環境整備が必要である。災害による一人ひとりの被害や負担の軽減に資するよう、平時はもとより有事に機能する質の高いデジタル防災に向けた対応を行うことが重要である。特に、国民の生命を守る観点では、災害が切迫した発災直前での防災気象情報の提供や、発災直後(特に人命救助にとって重要な発災後72時間)の応急対応時の情報共有におけるデジタル活用について、重点的に取り組んでいくことが求められる。

(リスクコミュニケーションの促進)
激甚化・頻発化する水害・土砂災害や高潮・高波等への対策として、河川管理者に加え、自治体や企業、住民といった河川の流域のあらゆる関係者が協働して流域全体で行う流域治水の取組みを推進していくことが期待される。その取組みを進めるためには、デジタル技術を活用したリスク情報の充実や、洪水予測技術の高度化、デジタルツイン化による治水対策の高度化等を通じて、リスクコミュニケーションを促すことで、災害時の円滑な危機管理対応を実現する体制を整備していくことが重要である。加えて、火山噴火や地震時等でも想定される大規模な土砂災害への迅速な初動対応のため、衛星活用による大規模土砂崩壊の把握や、火山噴火に起因する土砂移動のリアルタイムハザードマップの活用による土砂災害範囲想定の高度化が求められる。

(被災状況把握の早期化・省人化)
発災前後の被災地では、救命・応急対応に向けて、限られた災害対応の人員を真に必要な業務に充てることが必要であり、デジタル化による被災状況の早期把握や省人化が重要である。例えば、センサー等によるリアルタイムでの浸水状況の把握など、デジタル化による効率的・効果的な対応が求められる。

防災・減災対策に関する情報提供の高度化
(災害情報へのニーズ)
災害への対応について、特にデジタル化を活用すべきと考える段階をたずねたところ、約半数の人が「発災前後(予測情報やリアルタイム情報の一元化、SNS等を通じた災害情報の伝達)」と答えており、発災前後における災害情報の伝達へのニーズが高いことがうかがえる。防災対応については、一人ひとりの行動変容が不可欠であり、そのフェーズに応じ、デジタル化の効果的な活用促進を図ることが課題である。平時等の発災前は、ハザードマップの確認や避難訓練などを通じ、自助・共助の充実を図ることが重要であるが、例えば、3D都市モデルといったデジタル技術と連携し、災害リスク情報の3次元化を図ることにより、住民に「わかりやすく」、「手軽に」、「広範囲に」情報を可視化することで、効果を高めることが期待される。また、浸水等の災害リスク情報の充実や避難支援、わかりやすい情報発信にもデジタル技術が有効である。最も関心の高い発災前後については、行政機関等がSNSなどデジタル化を活用し、予測情報・リアルタイム情報を一元化して情報発信することで、災害情報を利用者にタイムリーに提供し、適切な避難行動を促すことが可能となる。また、要配慮者等を含め地域住民による自助・共助による行動を促進すべく、ラストワンマイル支援や危険の切迫度の情報共有をデジタル活用により図ることも必要である。また、センサによる浸水域のリアルタイム把握や洪水予測、デジタル技術を活用した災害対応の強化も効果的である。

(防災気象情報の高度化)
豪雨災害等による被害を減少させるため、デジタル技術を活用しつつ、地域の防災対応、住民の早期避難に資する防災気象情報の高度化を図ることが重要である。例えば、衛星等による観測の強化、最新のスーパーコンピュータシステムの導入による気象データの計算能力の向上、解析・予測技術の高度化等により、線状降水帯等の予測精度を向上させ、災害発生への警戒の呼びかけや住民の迅速かつ確実な避難等への活用を図ることが重要である。

(災害リスク情報の可視化)
地域の様々な災害リスク情報と位置情報を組み合わせて理解することは、リスク管理の観点で重要である。例えば、3D都市モデル等のデジタル技術を活用することで、従来は平面で表現されていた、洪水等による浸水エリアを地図上に3次元で分かりやすく可視化することや、被害予測や避難行動のシミュレーションを行うことが可能となる。これにより、地図情報に馴染みのない人でも直感的に災害リスクを把握することができ、防災意識の向上につながるとともに、各地域の特徴に応じた避難経路の策定をはじめ、実効的な防災対策に活用できるなど、防災意識社会の形成への寄与が期待される。

事例紹介:
(3D都市モデルを活用した非難講堂支援(PLATEAU、国土交通省))
洪水等の災害時、住民が命を守る行動をとるにあたっては、早めの避難や被災状況に応じた適切な避難ルートの選択等が必要であるが、地域の災害リスクと自ら取るべき行動を一体的に認識することは容易ではない。国土交通省では、時系列ごとの浸水の広がり、浸水リスクを考慮した避難ルート等を3D都市モデル上に分かりやすく可視化するとともに、算出された浸水範囲と避難ルートをAR空間で体験するアプリケーションなどの開発を行い、住民の避難行動の変容を促進する実証事業を推進している。

例えば、東京都板橋区は、荒川の破堤により、破堤後30分未満で浸水5mを超え、さらにその後2週間以上浸水が継続すると想定されるエリアを含む、水害リスクの高い地域である。氾濫発生時には、浸水により避難ルートが遮断され、建物が孤立する可能性もあるため、住民が水害から身を守るためには、想定されるリスクとそれに応じた避難行動を事前によく理解し、発災時に的確に行動できるよう備えておくことが重要である。この地域の住民に対して、3D都市モデルを用いた「洪水による浸水の広がりの時系列での可視化」、「時系列浸水推移と連動した避難ルート検索システム」及び「避難ルートと最大浸水深をAR空間に表現するアプリケーション」を体験してもらい、建物から避難場所への避難ルートが時間経過によって変化していく様子を可視化することで、防災意識の向上を図っている。

また、熊本県熊本市は、2016年の熊本地震の際、渋滞により車での避難に課題が生じた経験を踏まえ、浸水被害予測や避難シミュレーションに加え、渋滞状況を加味し、車又は徒歩の別に避難に要する時間やルートを示すシステムを開発し、住民に体験してもらうことで、防災意識の向上を図っている。

(災害情報の提供の多様化)
従来の「重ねるハザードマップ」に音声読み上げソフトに対応した文字情報を追加するなど、視覚障害者等も災害リスクや災害時に取るべき行動に関する情報を確認できるようになることが期待される。

(つづく)Y.H

(出典)
国土交通省 令和5年版国土交通白書
令和5年版国土交通白書