ISO情報

新社会人のきみへ —– ISO攻略(レベル1) —–(その4)

第4章 標準化・仕組み化

第3章の中で仕組み化という言葉を既に用いていますが、これからあなたが社会人として活躍していくためには、標準化そして仕組み化の概念を理解しておくことはとても大事なことになります。
標準化は私たちの生活の利便性向上にとても寄与しています。ものの長さや重さについては、私たちは小学生の時に習うことで、共通の枠組みを理解する第一歩が出来上がっています。

会社に入れば、様々仕事を効率的、効果的に進めていく必要が出て来ます。芸術作品を生み出すような工程とは普段の仕事の流れはだいぶ異なり、かなり同じことあるいは似たようなことを行うのが実際の会社での仕事となります。
そうなると、いつ取り組んでも、そして誰が取り組んでも同じような結果を出すためにも仕事のやり方、手順が決まっていると出来上がるもののバラツキは抑えることが可能になります。バラつきが抑えられることによってお客様からも信頼されるようになります。

つまり標準化、仕組み化は会社としての基盤を支える大事な概念なのです。この章では社会人にとって基本の理解が必須である標準化、仕組み化について学んでいきます。

4.1 標準化とは

先に標準化は生活の利便性向上に欠かせない、という話をしました。私たちは日常生活において様々な場面でこの標準化の恩恵を被っています。
例えば通勤のシーンで考えてみましょうか。読者の皆様は多くの方が電車通勤か車での通勤をされていると思います(少数の方は自転車通勤、徒歩による通勤、ということかと思います)。

まず電車通勤で考えれば、まずは駅まで徒歩等で行って、改札口を通りますね。その際、定期券を昔は駅員さんに見せていましたが、今はかざす方がほとんどでしょう。いわゆるICカード乗車券(交通系電子マネーという言い方もされていますね)を皆さんは持ち活用されていると思います。このICカード乗車券にはいくつもの種類があることはご存知でしょうか。発行当初は関東のICカード乗車券では関西で電車に乗ることができませんでしたが、2013年に全国のICカード乗車券の相互利用が開始され、出張に行った時などでも都度切符を買う必要がなくなり本当に便利になりました。

難しい説明をすると、非接触型ICカード方式を採用している電子マネー機能付き乗車カードという標準化が図られたカードによって、この相互利用が可能になったのです。情報のやり取りの方式が統一されている(標準化されている)からこそできる技、ということになります。

さて、通勤シーンに戻りましょうか。
少し長い時間軸にはなりますが、今の交通網は10年、20年前とは様変わりになってきました。何が変わってきたかというと、特に首都圏での話になりますが、鉄道会社が違うのに、あるところから電車に取ったら相当先までその電車に乗ったまま行けるようになったということです。私鉄各社でこの状況が多く生まれています。相互乗り入れがどんどん進んだわけです。首都圏の方でないとわからないかもしれませんが、従来は私鉄3社それぞれ運営を行っていたある路線で相互乗り入れを行ったことによって、神奈川県から東京都を通って埼玉県まで1本の電車でずっと行ける、という状況が起きています。

これはなぜできるかというと、まずは線路です。線路の幅が規格で決められ、私鉄各社の車両もその規格に合わせて作られていることで、各社が保有していた車両で他社の線路の上を走ることができるのです。もし線路の幅が各社でバラバラであればこのような相互乗り入れは全くできないわけで、これも標準化の恩恵ということになります。
(相互乗り入れでかえって混雑がひどくなった、座ることができた路線だったのに座れなくなった、という負の部分もある点はここでは目をつぶっておいてください。)

車通勤の方のことも少し触れておきましょう。まず車を運転する際は道路のどちら側を通りますか。もちろん左側ですね。これは交通規則で定められているから、ということになりますが、日本の運転免許証をお持ちの方はすべてこのことを理解したからこそ免許を交付されているわけで、これも標準化が行なわれている一つの事例です。さらに交通規制に用いられる信号。赤、黄、青の3色ですが、これも全国どこに行っても色及び並び順は同じですね。これも標準化ができているからこそ、ということです。

日本において標準化を推進している団体に、一般財団法人日本規格協会というところがあります。その団体のホームページでは標準化について、以下の説明を掲載しています。参考までに転載します。一読しておきましょう。

自由に放置すれば、多様化、複雑化、無秩序化してしまうような「もの」や「事柄」を少数化、単純化、秩序化すること。
標準化の役割(メリット)には主に次のものがあります。

・互換性の確保
・品質の確保
・生産効率の向上
・相互理解の促進
・技術普及
・安心、安全の確保
・環境保護

更に近年、これらを応用した形で、社会的な課題の解決、新産業・新市場の創造、企業の経営戦略ツールなどとしての標準化の役割も注目されつつあります。
なお、JIS Z 8002(標準化及び関連活動-一般的な用語)では「実在の問題又は起こる可能性がある問題に関して、与えられた状況において最適な秩序を得ることを目的として、共通に、かつ、繰り返して使用するための記述事項を確立する活動。」と定義されています。

https://www.jsa.or.jp/dev/glossary_1/

4.2 仕組み化とは

組織は誰か一人だけいればよい、というものではないことは誰もが容易に理解できると思います。大きな規模の会社になればなるほど、大勢の方が力を合わせて仕事を成し遂げていく必要があります。社長一人しかいない会社であれば、その社長がある意味勝手気ままに仕事をやりたいようにやってもお客様が認めて頂けるのであればまだ組織としての存続は可能ですが、規模が大きくなって来れば、それでは会社が続きません。皆が力を合わせて連係プレーをしっかり行ってこそ、お客様に評価される仕事をすることができます。そのためにも自分たちで決めて、守っていく必要があることが組織運営そして業務の進め方です。それこそ、始業時刻と終業時刻を決め、それを皆が守ることが第一歩です。

そして例えば製造業であるものを作る生産量が1日10個であったとしましょう。お客様からの注文への対応のためには、注文量と可能な生産量がうまく釣り合いが取れていなければなりません。例えば今、在庫が全くないゼロの状態のとき、お客様からその製品への注文が100個入ったとします。1日10個作る能力を自社は持っているわけですから、他のお客さま方の注文が入らない、トラブルがない等の条件を仮定すれば、10日経てばお客様の要望される量の製品を作り上げることができるはずです。

ところが、その会社では仕組み化が不十分で、対応する社員の能力にすごく依存する状態であったとすると、1日の生産量が10個できる日もあれば7個しかできない日があるなど、ばらつきが出るリスクがとても高くなります。そうなると10日後に注文の製品を作り終えることができるかどうか確約できなくなってきます。このレベルの会社であれば、お客様から高い信頼感、安心感を獲得するのは無理であることはあなたも容易に想像がつくことでしょう。
つまり仕組み化は、いつ、だれが対応しても、期待する成果を上げることができる確立された手順ということになります。

この仕組み化が組織の中であちこちに埋め込まれ、そしてそれを社員の方々が活用できればその組織の業務効率は高いものになると共に、透明性も上がることになります。反対に仕組み化が浸透していなければ、特定の人に業務運営を依存することになり、その人が風邪をひいて急に休んだりするとその部分の業務がストップしてしまうということにつながります。これではお客様もその会社との取引をどんどん大きくのはためらってしまいますね。

逆に、新入社員であるあなたは、ある仕事に初めてついたときに、それまでにその部署で出来上がっていた仕事を進める仕組みを無視して、自分勝手な仕事の進め方をすれば、たとえ結果は大丈夫であっても上司からはお目玉を食らうことになってしまいます。結果が問題なかったのだから良いではないか、という意見もあるでしょうが、それはあくまでたまたまの結果なのです。過去の経験に基づいて、仕事の仕組み化がなされているのであれば、あとから来た方はその仕組み化された手順でその指示された仕事を行うことが先ずは礼儀です。もう少し強く言えば義務と言ってもよいでしょう。

標準化と仕組み化。とても似ている内容ですが、どちらもすべての会社にとって必要不可欠な概念です。ここで両者への理解を確実に深めておきましょう。

コラム ISOとは①

ISOは、International Organization for Standardizationの略称で、日本語では「国際標準化機構」と訳されています。ISOの起源は、第2次世界大戦後の1946年にロンドンで開催された連合国18カ国の会議に遡ります。ISOはその前身であるISA(万国規格統一協会:1926年設立)の業務を継続するべく新しい機関として設立されました。ISOは、「国際的交流を容易にし、経済的活動分野の協力を発展させるために世界的な標準化を図ること」を目的に、次の目標を定めています。

  • (輸入される)製品の安全を保証する。
  • 高品質な製品を作る。
  • 製品の互換性を確保する。

現在、ISOの発足を決議した10月14日は、国際標準化の日(World Standards Day)とされ、世界各国で標準化に関する催しが行われています。日本では、この日に前後して標準化全国大会が開催され、標準化に関する講演や標準化に貢献した人に対する表彰などが行われています。

(次号へつづく)