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新社会人のきみへ —– ISO攻略(レベル1) —–(その6)

第6章 ISOを知ろう

第5章ではマネジメントシステムとはどのようなものであるかを学びました。そしてISOが世の中で最も知られ、そして活用されているマネジメントシステムのひな形文書を発行していることと、マネジメントシステム規格=ISOが間違いであることも認識できたと思います。
第6章では、そのISOが発行した世の中で最も知られるようになったマネジメントシステム規格の文書内容についての概要を学んでいきましょう。

6.1 ISOは民間組織

規格の詳細に入る前に、ISOという団体についての説明を少々しておきましょう。
ISOは、International Organization for Standardization の略称で、日本語では「国際標準化機構」と訳されています。ISOの起源は、第2次世界大戦後の1946年にロンドンで開催された連合国18カ国の会議に遡ります。ISOはその前身であるISA(万国規格統一協会:1926年設立)の業務を継続するべく新しい機関として設立されました。
ISOは、「国際的交流を容易にし、経済的活動分野の協力を発展させるために世界的な標準化を図ること」を目的に、次の目標を定めています。

 ・(輸入される)製品の安全を保証する。
 ・高品質な製品を作る。
 ・製品の互換性を確保する。

ISOには、2019年3月末現在、163カ国が加盟しています。ISOへの参加資格は各国の標準化団体一機関に限られ、日本はJIS(日本工業規格:Japanese Industrial Standards)を審議しているJISC(日本工業標準調査会:事務局経済産業省)が加盟し、現在、米国、イギリス、フランス、ロシア、ドイツと並んで常任理事国となっています。同様な国際標準化機関としては、1906年に創設された電気分野の国際標準を進める国際電気標準会議(IEC:International Electronic Commission)があり、電気電子分野の会社の方であれば、ISOだけでなく、IECという組織名、そしてIEC発行規格に業務上触れていくことがあろうかと思いますので、記憶にとどめるようにしましょう。

ISOは、スイス民法第60条に基づくスイス国の法人で非政府機関です。
非政府機関、つまり一民間団体なのです。ここも実はあまり知られていない、あるいは誤解されているところですので、注意しましょう。
過去、日本では、ISOは国連機関でないからあまり重要でないという認識がありました。しかし、ISOは、数多くの国際連合及び関係の国連専門機関の諮問的地位をもっています。例えば、1995年に発効したWTO(世界貿易機関)/TBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)の第5条(中央政府機関による認証手続き)は、加盟国が行う技術的規制または任意規格に対する認証手続について、国際標準化機関(ISOやIECなど)の定める指針や勧告を基礎として使用することを義務付けています。

WTOは、世界の自由貿易体制を守るために日本にとっては重要な国連専門機関のひとつです。この先国際情勢に気を配っていると、関税問題などで国際貿易上二国間等で対立が起きた時にWTOに提訴する、あるいは提訴を検討する、という報道に接することが出てくるはずです。そこででてくるWTOです。ISOが国際標準化機関として、WTOの公式オブザーバーに入っていることは、ここで発行される国際規格に重要な意味を与えています。

そしてこのISOの活動の成果の多くは規格という形で結実し、文書が発行されています。ISOのホームページから英語の文書にはなりますが、誰でも購入することができます。PDF版であれば瞬時にクレジットカード払いであれば瞬時に購入することができます。

6.2 ISO発行規格

ISOが発行している規格は2万種類を超えました。この先もどんどん規格の数は増えていくでしょう。
ISO 1(製品の幾何特性仕様及び検証のための標準基準温度)から始まっていますが、何番の規格が最後なのかは筆者も調べがつきません。若い番号から順番に付けられていくのではなく、新しい規格ができると、空いている番号の中から選ばれているのが現状の運営方法です。

ちなみにISO 1番は、あるものの長さを測定する際には摂氏(°C)20度にしなさい(華氏(°F)であれば68度になります)ということを決めた規格です。
そしてISOが発行している規格は、そのほとんどが製品規格と言われるものです。日本でも有名になったものは、ISOネジではないでしょうか。ネジにもさまざまな寸法があります。その寸法を規定した規格がISO規格として発行されており、全世界で共有されています。ネジという有形のもの(製品)のサイズを規定する国際規格が、ISOが発行している代表的な製品規格です。

よって、この製品規格については、皆さんの会社の取り扱っている、製品、部品によって様々なものに分かれます。これから業務にどんどん入っていく段階で特に製造業の方々は長くかつ深い付き合いをされていくことでしょう。一方でサービス業の方にとってはISOの製品規格に接することはあまりないかもしれません。

2万を超えるISO規格ですが、これからあなたが学ぶマネジメントシステム規格と呼ばれるものはそのごく一部です。ISO 9001、ISO 14001等の規格が現在日本だけでなく、世界的に活用される状況になりました。製品規格のように有形のものを対象とするのではなく、組織運営の在り方を規定した文書としてそれまでの製品規格とは全く別のものができたということになります。そしてそのマネジメントシステムの源流は、1987年に生まれたISO 9001です。

6.3 ISOマネジメントシステム規格誕生の歴史

第二次世界大戦後、ヨーロッパには戦勝国の常駐部隊であるNATO(北大西洋条約機構)軍が駐留していましたが、軍では調達する物品の品質問題に手を焼いていました。
NATO軍の購買部門は、母国の標準化団体に対策を打ってくれるよう依頼するのですが、その結果がISO9001規格を生むきっかけになったといわれています。アメリカでは、1979年に品質マネジメントシステム規格が制定されました。フランス、カナダ、英国等でも同様な主旨の国内規格が相次で制定されましたが、中でも英国の標準化団体であるBSI(British Standard Institute:英国規格協会)が1979年に発行したBS5750規格は、ISO9001規格の誕生に大きく影響を与えたといわれています。

BS5750規格は、Quality systemsとタイトルにあるように品質マネジメントシステムを規格にしたものです。アメリカの規格、英国の規格が購入者からの要求をベースにしていたことが、将来制定されることになるISO9001規格の性格を決めることになりました。

そのような動きの中、ついに1987年ISO9001規格が生まれたのです。但し当時はまだマネジメントシステム規格という言葉、概念は存在しませんでした。1987年に発行されたISO 9001規格のタイトルは「品質システム」とマネジメントという言葉はまだ入っていなかったのです。そしてその後、ISO9001規格は改訂が重ねられていくのですが、第3版となった2000年における改訂時に内容が大幅に拡充、刷新され、そのタイトルもついに「品質マネジメントシステム」と「マネジメント」という言葉が使われるようになり、現在に至っています。

しかしながら、実はマネジメントシステム規格と言われるようになった源流はISO 9001ではなくISO 14001の環境規格の方にあります。環境規格であるISO 14001は1996年に初版が発行されたのですが、既にその時からタイトルに「マネジメントシステム」という言葉が用いられています。
当時はまだ品質と環境を統合したマネジメントシステムを運用しよう、という機運はあまり生まれていなかった時期でもあったため、あまりこの事実は認識されていないかもしれませんが、ISO規格は着々と変化してきているのです。 因みにISO 9001は現在第5版、ISO 14001は第3版が最新版規格となっています。

6.4 ISOマネジメントシステム規格の骨子

いよいよISOマネジメントシステム規格の内容に入っていきましょう。
2012年にISOから共通テキスト文書というものが発行されました。ISO規格作成者のための手引きなのですが、ここでISOが発行する、あるいは改訂するマネジメントシステム規格については、この共通テキスト文書を骨格として用いて、その上で各個別分野固有の内容を肉付けしていきなさい、というるルールが定められました。ISO業界内では同文書のことを附属書L(発行当初は附属書SLと言われていた)と呼んでいるため、もしかすると皆さんの会社内でも附属書Lという用語を用いている人がいるかもしれません。完全なISO業界内のテクニカルターム(技術専門用語)です。ただしそれを使ってはいけないというものではありませんので、ご容赦ください。
さて、この共通テキスト文書の章立ては以下のようになっています。

1.適用範囲 6.計画
2.引用規格 7.支援
3.用語及び定義 8.運用
4.組織の状況 9.パフォーマンス評価
5.リーダーシップ 10.改善

図表6-1 ISO共通テキスト文書(附属書SL)の構造

そして、この箇条の流れがそのままPDCAサイクルを回しやすいように構成されているのです。
共通テキスト文書内には書かれていないのですが、ISO 9001規格やISO 14001規格に展開される際にそれぞれの規格でPDCA図が書きこまれています。若干の違いはありますが、趣旨は同じであることを下記の図を見れば感じ取れるのではないでしょうか。
図表6-2 ISO9001におけるPDCAサイクルの図
(JIS Q 9001 0.3.2項より引用)

図表6-3 ISO14001におけるPDCAサイクルの図
(JIS Q 14001 0.4項より引用)

そして、今一度、図表6-1の共通テキスト文書の章立てに目を移してください。この構成の中で主文とも言える内容が書かれているのは、4.組織の状況から10.改善までの各項目になります。
規格要求事項と呼ばれるところもこの4~10の章が対象になっています。
認証を取得するにはこの4~10に書かれた規格要求事項と呼ばれる部分にすべて対応していなければなりません。そのことについては次の6.4でもう少し説明をしていきます。

さて、ここではISOマネジメントシステム規格の骨子を理解してもらいたいわけですので、その説明に戻りましょう。
4~10で書かれている内容を、少し長くなりますが、言葉で説明を加えると以下のようになります。

①組織経営を行っていくに当たり、自社の置かれた状況を経営陣はしっかりと認識すると共に、自社の経営の目的を忘れることなく、どのような自社の将来を創り出していくかを経営者の責務としてしっかり描く。

②その描いた将来像の達成のために、経営者は率先垂範して自社を取りまく状況を社内に発信すると共に、取り組むべき課題に全社一丸となって活動ができるような方針を設定する。

③定められた方針に基づいて、各部門、部署では目標を設定し必要に応じて部署内や各個人への目標の展開を図り、日々の活動につなげる。

④それらの活動を行っていくうえで必要な経営資源を会社は確実に用意する。大事な経営資源とは、人材、設備機器類や職場環境、そしてお金の用意(社員の皆さんの給与賞与も含んで)という、俗に言う「人、モノ、お金」のこと。

⑤定められた方針に基づく目標達成のために、会社が用意した経営資源を上手に活用して、自社ならではの魅力ある製品・サービスの製造・提供を行う。

⑥自分たちの活動が狙うべき方向に向けて進んでいるかを確認、評価する。その確認、評価には監視測定、検査、内部監査、マネジメントレビューと呼ばれる手法を使う。

⑦常に改善を意識して、不具合が見つかった場合は、応急処置を行うだけでなく、二度と同じ不具合がおきないような対処策を検討し、実施する。また問題なく納品、提供まで終わったものであっても更によくするために何かできることはないかに目を光らせ、場合によっては仕組みそのものの改善まで行う。

⑧確認、評価を行った結果を次の方針や目標に活かして、継続的改善のサイクルを回して行く。

少々長くなりましたが、これがあなたの会社の一定期間(例えば1年)のサイクルの内容です。そしてその活動状況をお客様に見られたときに、安心感、信頼感が感じられるような組織運営としていくための指南書としてISOマネジメントシステム規格が作成されているのです。

(次号へつづく)