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新社会人のきみへ —– ISO攻略(レベル1) —–(その2)

第2章 会社とは何か

第1章の最後で、自分が勤める会社のことを知る、そして自分の会社が抱えるお客様について知ることが仕事をしていく上での基本、というお話をしました。
第2章では、もう少し大きな枠組みで、そもそも会社とは何か、ということについて学んでいきましょう。

2.1 社会の公器

社会の公器、という言葉を聞いたことがありますか。
会社は利益を上げるために存在している、という考え方はお聞きになったことがあると思います。良い悪い、という問題ではなく、会社は抱えている社員にお給料を支払い、その上で存続していくことが必須です。そのためには赤字では困るわけで、きちんと利益を上げることから目をそむけてはいけません。
しかし、仕事をする目的がお金だけになってしまうと、企業経営は必ずと言ってよいほどおかしな方向に進んでいってしまいます。企業の不祥事として時々大きく報道されることがあります。贈収賄事件はいつの時代も世間を騒がせます。資本主義経済と言われる現代社会においては、これらの問題が完全にゼロになる、ということはまずないでしょう。そのような中で、私たちが常に意識しておかなければならないことは、企業活動は利益の追求のためだけにあるわけではない、という点です。
利益も追求しますが、それと同時に大事なことは公益性を考え、世のため人のためになる事業か、という視点、意識です。

松下幸之助氏の著書の中に素晴らしい一節がありますので、以下に引用したいと思います。

 

一般に、企業の目的は利益の追求にあるとする見方がある。利益についての考え方は別のところで述べるが、確かに利益というものは、健全な事業活動を行なっていく上で欠かすことのできない大切なものである。

しかし、それ自体が究極の目的かというと、そうではない。根本は、その事業を通じて共同生活の向上をはかるというところにあるのであって、その根本の使命をよりよく遂行していく上で、利益というものが大切になってくるのであり、そこのところを取り違えてはならない。

そういう意味において、事業経営というものは本質的には私の事ではなく、公事であり、企業は社会の公器なのである。

実践経営哲学(PHPビジネス新書)より引用(P.39~P.40)

会社の存続のためには利益は必ず必要です。その利益によって将来の会社の事業を作り出していかなければなりません。更に利益が出るからこそ、国に税金を納めることができます。税金が集まらなければ国家という基盤の維持も困難になってしまうのです。その理解をすることによって、自分たちが会社という枠組みを通じて何をしていけばよいかが今の段階から見えてくれば素晴らしいことです。
社会の公器という概念があることを是非覚えておいてください。

2.2 三つの役割

会社に入ってすぐの段階は、右も左もわからない状態ですので、上司や先輩から様々なことを教えてもらうことになります。特に学校を出て初めて社会人になる人にとってはほとんどすべてのことは初めて聞くような状況かもしれません。昨今の方々は学生時代にアルバイトの経験を色々積んできていることから、昔の新入社員のように本当に一から教えなければいけない、という状況とはだいぶ違うでしょうが、それでも社会のしきたりを含めて、いろいろ伝えること、教えることはあります。

そして新人の皆さんも頭では分かっていても、実際の行動に結びつかない、ということもよく起きるはずです。例えば言葉遣いひとつとってもそうでしょう。正しい敬語を使いこなす、ということも社会人になった上では必須のことですが、頭では分かっていてもいざとなると口から出てこない、尊敬語と謙譲語がごちゃごちゃになってしまう、というようなことを多くの先輩方も経験してきています。
人間に失敗はつきものです。失敗を恐れて行動を起こさない、ということでは残念ながら評価できません。失敗した時は、真摯にお詫びをする。二度と同じミスを繰り返さないようにしっかり自分自身の中にその学びを落とし込むことを心掛けてください。とは言え、同じ失敗を二度繰り返してはダメ、と言われていても、二度目の失敗をしてしまうケースはあります。その時は一度目以上に真剣に謝る、そしてさすがに三度目はダメですからそのことを肝に銘じておいてください。
筆者自身も同じ失敗を二度繰り返したことが一体何回あるやら(つまり、一度や二度ではないということです)。三度失敗したらさすがに人事考課に響く、という覚悟が必要です。

さて、そろそろ本項の主題に入ってきましょう。
社会人になると、その人は様々な役割を担うことになります。ワークライフバランスという言葉は聞いたことがあるでしょう。仕事ばかりの人間になってはダメですよ、ということになりますが、私生活における役割のことまで考えれば人間は社会人となることによって、一人何役もの役割をこなさなければいけないのです。大変ですね。
では社会人になりたての方々にとって会社生活の中で担う役割は、基本3つです。その3つとは、

① 部下としての役割
② 後輩としての役割
③ 若手のとして役割

です。では一つずつみていきましょう。

(1)部下として役割

これは説明には及ばないと思いますが、会社では基本、直属の上司がいます。部課制を取っている会社であれば課長ということになります。普段の仕事の指示命令は課長から飛んでくる。仕事の報告、連絡、相談(いわゆる、ホウレンソウです)は課長に対して行う、ということになります。

課長からすれば部下の管理指導そして育成の責任を負う一方、人事考課の権限も通例は持つことになります。
つまり、学校を出たばかりで本当に社会人になりたての頃は、社内で意識すべき人はこの課長さんだけ、というと少々オーバーですが、それに近い状況が生まれるわけです。課長の言ったことを忘れれば当然叱られますし、課長の指示事項に対し、課長の期待以上の成果を出せば褒められる、ということです。

基本ここで求められるのは、従順で課長にとって扱いやすい部下ということになります。もちろん課長の指示に対して「はいっ!」という返事はよくても一向に成果の上がらない部下と、指示に対して、いつも一言二言うるさいことは言うけれど、成果はしっかりあげてくる部下とでは、どちらが評価されるかは言わずともお分かりですね。社会人にとっては、付き合いも大事ですが、成果の方がより大事になってきます。その点はお間違いのないように。

(2)後輩として役割

さきほどは、課長と直属の部下という関係の中でのお話をしました。課長がいてその下に部下が6名いる部署というものを想像してみてください。あくまで仮の話ですが、その6名の内、あなたと同じ新入社員がもうひとりいます。いずれにせよ、新入社員としての同期の人以外はすべて自分より先輩(年齢も社歴も)ということです。

この場合、あなたは仕事における直接のやりとりは課長との間で行われますが、課長と同期の人以外の4名の人は皆先輩という関係です。いくら仕事の指示は直接課長から来るとは言え、会社のしきたりや仕事の進め方などは何から何まで課長が面倒を見てくれるわけではありません。こんなことを課長に聞くと、「あの時何を聞いていたんだ!」と怒られそうなことはそっと先輩に聞いて教えを乞うことができれば、とても助かるものです。その代わり、それによって自分が助かった、と感じられるようであればその先輩に恩返しをしなければなりませんから、「コーヒー買ってきてくれないかな」と言われたらすぐさま「はいっ、行ってきます」というような関係を築いておくと仕事面でもプラスになることが多くなってきます。その先輩が新入社員だった頃の苦労話などを教えてもらえるようになれば、それもとても貴重な情報源になります。先輩の方も自分の仕事で何かを悩んでいる際にふと後輩であるあなたに昔話をしながら仕事の基本に気づき、自分の仕事にプラスの効果が及んだ、なんていうことにもなり得るのです。

そのような何気ない会話が机を並べる課の中で起きることは職場の活性化という面から考えても良い効果をもたらします。先輩におべんちゃらを言って、とりなすようなこともたまには必要かもしれませんが、基本は大人としてのコミュニケーションをしっかりとることです。人の話を最後まで聞く、途中で話の腰を折らない、話している内容をしっかり理解する、と言った基本的なことを常に心がけ実践することができれば、今度うちの課に来た新人はなかなかじゃないか、という評価を獲得することに近づきます。人の話をしっかりきく、ということは意外と難しいことだからです。この「しっかりきく」ということについては別な機会に改めてお伝えしたいと思います。

いずれにせよ、この課の中では大勢の先輩に囲まれた、あなたは後輩という役割を担うことが必要になります。

(3)若手として役割

3つ目として「若手」という書き方をしました。これは2つ目の後輩という部分とも重なるのですが、少々違う部分も含みますので分けて考えます。

部下として、そして後輩としての役割はあくまで主従の関係で言うと「従」の方でした。昔とはだいぶ日本社会も変わってきたとはいえ、年功序列といった儒教的精神の色濃く残る特に日本企業(外資系企業の場合はいささか状況が異なると思っていますので)の場合には、この感覚を大事にした方が良いわけです。ですが、組織の活性化という観点から考えると、新入社員の方であっても「主」の方に回るケースがあって欲しいのです。

私事で恐縮ですが、筆者の場合を一例としてお話しします。入社後の新人合同研修を終えて最初に配属先に出社した際、そこのトップである支店長から初日の面談時に一番強調されたことが何と以下のことでした。
「君は学生時代に相当にテニスをやっていたようだから(履歴書にはそのような記載はなかったはずですが、人事部からの情報が入っていたようです)是非とも支店の活性化のために女性陣にテニスの手ほどきを『仕事と思って』やって欲しいのだが・・・」という、話しの入り方は相談でしたが、実際は有無を言わさない命令と思える状況でした。
さあ、仕事を頑張るぞと思って初日を迎えたのに、なんだ!?と大いにモチベーションが下がったことを30年以上経った今でも鮮明に覚えています。ですが、経営者の立場となった今となると、その時の支店長の心の内はわかるようになりました。その時の支店長の言い方がダメだったわけですが、支店経営を考えればそれもとても重要な要素の一つであったわけです。完全に時間外の活動になるので今のご時勢ではなかなか実現は難しいことかもしれませんが、当時は社内旅行も行くのは当たり前、という時代でしたので、にわかテニス教室はその後の飲み会も含めてそれなりの数の参加者が集まり、職場の風通し向上には貢献しました。そして何より私自身が支店内の皆さんと仲良くなるきっかけには間違いなくなりました。

長くなってしまい恐縮ですが、このような形で、若い皆さんだからこそおじさん、おばさん(失礼!)では知らない世界(今であれば、スマホやITの世界などが一つのジャンルでしょうか)についての豊富な知見を持っている分野があるのではないでしょうか。仕事とは直接つながらなくても、コミュニケーションのキッカケや、もしかするとそれらの知識を上司の方は理解することでお子さんとのコミュニケーションを取るきっかけになったりするかもしれない、と言った波及効果があるかもしれません。年上の人とは話が合わないケースの方が多いでしょうが、そこは少しだけ我慢しておじさん、おばさんたちに付き合ってあげて欲しいのです。それによって上司、先輩との仕事とは違った意味での関係、絆が生まれるかもしれないからです。その際はあなたがその場でのリーダーとなるわけです。

部下として、後輩として、そして若手として、という3つの役割の違いを是非認識の上、日頃の交流を図る際のヒントにしていただきたいと思います。

2.3 経営の目的と目標

あなたが今所属する会社では、将来のことについての意見交換、議論をする機会はどれくらいありますか。なかなか日々の溢れるような仕事に向き合っていると、20年後、30年後という遠い将来について言葉を交わす機会はないかもしれません。ですが、その会社も創業の時には必ず将来のそして遠大と言ってもよい思い(「志」という言葉がぴったりくるでしょう)を創業者が持ち、会社を起こしています。
このような話をするときに、よく持ち出されるのがソニーの創業者のひとり、井深大氏の起草した設立趣意書です。
「東京通信工業株式会社設立趣意書」としてソニーのホームページに掲載されていますので、一度見ていただければと思います。

その中でよく取り上げられるのは、会社設立の目的の中のある言葉です。目的に関して8項目が箇条書きで挙げられているのですが、その第1項で「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」の言葉は本当にあちこちで見聞きするほど多くの人々の心を捉えています。

世界的ベストセラーとなった書籍「ビジョナリー・カンパニー」ジム・コリンズ著、日経BP社でもソニーのことが取り上げられています。この書籍も有名な本で発刊から既に25年以上経ち、この本の中で賞賛された企業がその後没落してしまったという批判はあるものの、一読の価値はとてもある本です。
学ぶべきことは、経営者のみならず全ての社員が近視眼的思考に陥ることなく、会社の将来を意識することはとても大事である、ということです。そしてそれはその会社にとっての目的という言葉で考えることの大事さにつながります。企業存立の目的と言ってもよいでしょう。何を成し遂げるのか。単に今日、明日の売上を立てる、ということではなく、世の中にどのような価値を提供していくのか、何を成し遂げようとしている会社なのかが世の中の人々にまで明確に伝わる会社が、高く評価され、結果として売り上げ伸ばし成長していきます。
その会社の大きな、そして遠大な目的を新入社員であっても、あなたが理解することは社会人としての第一歩であると共に、大事な基本作法です。

1.3で、自社を知るという観点で説明をしましたが、それよりもさらに大きな捉え方が必要であることをここでは理解してください。ここまで深められてこそ、本当の意味で自社を知る、ということができたと言えるようになります。 また目的という一般名詞がそのまま会社の中で使われているとは限りません。会社の目的とは何か、ということに対して、それぞれの会社では別な言葉を用いているケースが多くあります。
「創業の理念」、「社是」、「ビジョン」、「経営理念」などという言葉はよく用いられます。「目的」という言葉を見つけることにやっきになるのではなく、目的に該当することを自分の会社ではどのような言葉を用いているかの調査、認識から始めることをお勧めします。

目的という言葉についての理解を深めてもらいましたので、次のキーワードである目標に進みたいと思います。
全ての会社には事業年度(会計年度という言い方もします)というものがあります。基本は1年間で、その1年間でどのような成果を上げるかという目標を設定し、その目標達成向けて全社一丸となって日々の業務を遂行していく、というのが会社の在り方の基本です。

暦(カレンダー)は全世界共通で一年は1月1日に始まり、12月31日に終わります。ですが会社は設立年月日等の関係で、始まりと終わりが1月と12月というように決まっているものではありません。日本においてはかなりの数の会社が学校の区切りと同じように4月1日に始まり3月31日に終わります。この期間設定は国家予算における設定とも同じです。あなたの会社ではこの事業年度がいつからいつまでなのか、既に入社して仕事をされている方であれば認識していると思いますが、これから入社される方は確実に頭に入れるようにしてください。繰り返しますがこの事業年度に合わせて、会社内でも目標設定が行なわれ、管理されているのです。

そして目標に関して、確実に理解をして欲しいことは次の2点です。

① 会社の目的とつながっていること
② 大きな目標から小さな、具体的な目標までつながっていること

の2点です。

一点目は、目的はとても大きな概念であり、その達成のためには細分化、ブレークダウンが必要であることは多くの方がすぐに感じ取れていると思います。大きな目的達成のためには、いくつもの目標を達成することによってようやく近づいていきます。つまり各部門等で展開される目標が自社の目的につながっていなければ、無意味とまでは言いませんが、その意味、価値はやはり低いものに留まってしまいます。目標設定の際は常に自社の目的と合致しているかということを何よりも大事にする必要があります。

二点目は、目的を踏まえた目標は大抵の場合、各部門で設定します。ですが組織の規模にもよりますが(小規模企業は別ということです)部門の目標をさらに細分化して、課やグループ、更には個人の目標設定をしていくのが通例です。部の目標があって、それを踏まえて課の目標があり、更にその課の目標を踏まえて個人目標を設定する、という区分けをイメージできれば有難いです。だんだん一人ひとりの業務に落とし込まれる過程で、目標の内容も細かくそして具体的になっていきます。

例えば、営業第一部の年間売上目標が10億円と設定されたとします。第一営業部では製品AAと製品BBと製品CCを扱っていました。それぞれが第1課、第2課、第3課で対応することになっており、10億円という部の目標が、第1課で5億円、第2課で3億円、第3課で2億円というように細分化された目標設定になっていました。さらに第1課では課長を含め5人の課員で構成され、Aさんには2億円、Bさんには1.5億円、それ以外の二人は新人のため課長の支援を受けながら二人で1.5億円という目標設定がされていたと考えてください。部全体の目標は10億円ですが、例えばBさん個人で考えれば2億円の目標であり、Bさんにとっては、まず何よりも意識するのは自分の目標金額です。そして、無視するわけではありませんが、自分の取り扱う製品AAのことに日頃は集中し、他の課で扱う製品BBや製品CCへの関心を高く持つことはできない、というのは普通の社員として対応になるでしょう。
 この意識の持ち方がダメ、というつもりは全くありませんのでそこは誤解なきようにお願いします。目の前の自分の仕事に集中して取り組むことが基本です。その上で周りのことにも目配りができるようになることが課長を目指していく上での目標ということになります。

 もう一度繰り返しますが、

① 会社の目的とつながっていること
② 大きな目標から小さな、具体的な目標までつながっていること

を常に意識した仕事ができるようになれば、もう立派な社会人です。この意識を若いうちから身に付ける努力をしていけば、あなたは将来、会社にとって手放すことのできない貴重な人材になっていることでしょう。

(次号へつづく)