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ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール(第29回)

平林良人「ISO 9001 有効活用のためのビジネス改善ツール」(2005年)アーカイブ 第29回

解説

第1章 はじめに

1.1 実体があってこその品質マネジメントシステム

最近、ISO 9001に基づく品質マネジメントシステム(QMS)構築の意義が、あらためて議論されている。組織の中に「実体」があってこそのQMSであるのに、実体の無いところにQMSを構築している例を多くみかける。実体がないとは言い過ぎかもしれないが、システムを構築している当人には実体があるように見えても、多くの場合、当人が見ているのは単なる「言葉が描いている幻想の世界」である可能性が強い。
ドウナツのように真中が空ろ(実体が無い)なのに、周辺を壁で囲って(QMSを構築)も、システムが組織にもたらす効果は極めて小さい。実体はどうなっているのか、実体に欠けている要素は何か、実体を改善する必要はどこにあるのか、QMSを構築(日本の企業ならば新規にQMSを構築することはほとんどないであろう)または見直すよりは先に、品質保証の実体を見直し実体を確立してほしい。ISO 9001の認証を得るために審査登録を受けてはならない。組織の品質保証の実体を見直し、確立し、その効果のあることを確認するためにISO 9001の審査登録を受けてほしい。ISO 9001に基づく第3者審査登録制度は、そのような目的のために活用されてほしい。

「デミング賞をとるために受審してはならない。受審は手段にすぎない。全社的品質管理、統計的品質管理を推進するために受審するのである。社長がリーダーシップをとって、これに挑戦すれば、全重役、全部課長、全従業員の考え方が変わって、経営の体質改善ができますよ。」
この言葉は、石川馨博士が20年前に、「TQCとは何か、日本的品質管理(1981、日技技連)」の中で述べている言葉である。
 
1.2 ISO 9001とビジネス改善ツール

本書は、組織が本当に効果の上がるISO 9001に基づくQMSを構築するにはどうすればよいのか、という問いに答えたものである。本書には各種ビジネス改善ツールとISO 9001との関係がやさしく解説されている。QMSの構築と同時に実態の充実も図って下さい、というメッセージが随所にちりばめられている。

本書“Beyond Registration /Getting the best from ISO 9001 and business improvement”の原名を正しく訳すと、「審査登録を超えて/ISO 9001とビジネス改善から最大のものを得る」であるが、内容的には“審査登録を超える”には物足りないものがある。確かに本書は、ISO 9001の要求事項と各種改善手法との相関に力を注いでおり、ISO 9001で規定されているミニマムの要求事項を超えてのモデルとアプローチを推奨していること、また改善モデルと改善アプローチとは異なることを整理していること、については舏目すべき点であるとして評価できる。

しかし本書の特徴は、ISO 9001を超えての論述よりもむしろ品質改善手法を(改善モデルと改善アプローチに分けて)広く世界中から集め紹介したところにある、といったほうがよい。本書の日本語名を「ISO 9001有効活用のためのビジネス改善ツール」としたのは、そのような背景からである。

本書には次の21のビジネス改善手法が紹介されている。

  1. バランススコアカード (BSC)
  2. ベンチマーキング (Benchmarking)
  3. ベストバリュー (Best Value)
  4. Better Quality Service Reviews (BQSR)
  5. Business Performance Improvement Review (BPIR)
  6. ビジネスプロセス・リエンジニアリング (BPR)
  7. チャーターマーク (Charter Mark)
  8. 故障モード影響解析 (FMEA)
  9. インベスター・イン・ピープル(IiP)
  10. 改善/継続的改善
  11. 改善チーム
  12. リーン・シンキング (Lean Thinking)
  13. パフォーマンス評価
  14. プロセス分類枠組み (PCF)
  15. プロセスマネジメント
  16. 自己評価法
  17. シックスシグマ
  18. 統計的工程管理 (SPC)
  19. 制約条件の理論(TOC)
  20. TPM (Total Productive Maintenance)
  21. TQM

以上21の手法で世界のビジネス改善手法が紹介し尽くされたかというと、そんなことはないと思う。著者であるリーズ大学ビジネススクールJohn Oakland教授からみれば、あるいはBSI(イギリス規格協会)の目からみれば、ビジネス改善の世界はこのような地図で表現できる、といっているのである。ちょうど日本人が作る地図だと日本が真ん中になり、英国人が作る地図だと英国が真ん中になる、といったことと同様なことが起きているのである。
そのような意味では、本書はある意味で貴重なものである。すなわち、本書は我々に西洋人からみた品質(ビジネス)改善の地図を示してくれているのである。英国人がみた地図だからこそ、

3.ベストバリュー (Best Value)
4.Better Quality Service Reviews (BQSR)
5.Business Performance Improvement Review (BPIR)
7.チャーターマーク (Charter Mark)
9.インベスター・イン・ピープル(IiP)

のような、我々には馴染みのない改善アプローチがリストアップされている。このようなある地域特有の改善アプローチにはもともと興味がないという方にはお勧めできないが、これから英国に旅行しようという方(英国で仕事をしようとする方)には便利な地図(改善アプローチ)ではあるだろう。