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新・世界標準ISOマネジメント(第15回)

平林良人「新・世界標準ISOマネジメント」(2003年)アーカイブ 第15回

2.2.3 2000年版改訂

  • 1994年の改訂は、大幅な変更は多くのISO 9000シリーズ規格を構築した組織の努力を撹乱するリスクにつながるという判断で、小幅なものに留まった。しかし、2000年改訂では、品質の分野におけるさまざまな進展とISO 9000シリーズ規格の実施運用で積み上げられてきた数多くの経験に配慮し、規格の根本的な見直しが行われた。
  • 以下に、主な変更点を挙げる。
  • 1)汎用性の向上
    • ISO 9000ファミリー規格をまず採用したのは製造業の大企業であったが、最近は数多くの国々でサービス業及び政府機関などの中小規模の組織がこの規格を実施するケースが増えている。規格を理解し易いものにし、このような分野における規格の実施を容易にするために、改訂版の規格は製造業に偏らない用語の使用に努め、今まで以上に使いやすいものにした。
  • 2)コア規格
    • ISO 9000ファミリーの規格数が削減され、その選択ならびに利用の仕組みが単純になった。改訂後は“コア規格”が4つとなり、これら4つのコア規格を1セットとして活用することにより最大限のメリットが引き出せるような構成になっている。
    • 2000年版コア規格
      • ISO 9000:基本及び用語
      • ISO 9001:品質マネジメントシステム-要求事項
      • ISO 9004:品質マネジメントシステム-パフォーマンス改善の指針
      • ISO 19011:品質マネジメントシステム及び/又は環境マネジメントシステムの監査に関する指針
  • 3)一対の規格
    • ISO 9001規格(要求事項)とISO 9004規格(パフォーマンス改善)は、“整合性のとれた一対の規格”として組み合わせて利用することを意図して作成されている。従来ISO 9004規格は、ISO 9001規格の付属のように思われていたが、品質改善のための規格として一対で使用できるようにした。
  • 4)プロセス重視
    • ISO 9001:2000は、製品及びサービスの製造、販売、納入等のビジネスプロセスに沿って構成されており、1994年版の20項目の構成よりも組織内における実際の仕事の流れを正確に反映したものとなっている。2000年版の構成の基礎となっているのは、“経営者の責任”、“資源の運用管理”、“製品実現”、“測定、分析及び改善”という新たな4つの主項目である。
  • 5)顧客満足
    • ISO 9000ファミリーにおける“品質”とは、顧客要求事項を満たすことを意味している。1994年版では不適合を防止することにより顧客要求事項を満たすことであったが、改訂版では、顧客満足度を測定するという要求事項が新たに加わることでこの点がさらに強調されている。
  • 6)トップのリーダーシップ
    • 2000年版では、品質に関するトップマネジメントの責務をあらためて強調し、スタッフや顧客とのコミュニケーションを図ることなどを要求事項として加えることでさらに拡張している。
  • 7)PDCAサイクル
    • ISO 9000ファミリーでは継続的改善を要求事項の一つと明確に規定し、PDCAのサイクルをその中核要素としている。
  • 8)ISO14001規格との両立性
    • ISO 9001:2000は、環境マネジメントシステム規格であるISO14001との両立性を最大限有するよう配慮して作成された。また、ISO 19011:2002規格はどちらにも適用可能な監査の規格である。
  • 9)品質マネジメントの原則
    • 2000年改訂版は“8つの品質マネジメントの原則”を基礎に作成されている。ISO 9004規格にも自己評価のための指針が含まれており、組織が自らの品質の“成熟度”を見極めて向上させることを支援している。この指針は、ISO 9001規格(品質マネジメントシステム)、各種品質賞取得に向けての努力、TQMプログラムのいずれともリンクさせて活用することができる。
  • 品質マネジメントに関する8つの原則
    • 品質マネジメントに関する8つの原則は、組織のパフォーマンス改善を促すに当たっての枠組みの一つとしてトップマネジメントが活用できるものである。この8つの原則は、世界的にその実績を認められた専門家の経験と知識を結集したもので、組織を持続的成功に導くことをその狙いとしている。
    • ここでは8つの原則それぞれについて解説している。すなわち、原則の活用によって得られるメリット、自らの組織のパフォーマンスを改善するために管理者がとるべき施策の代表例が示されている。
    • 原則1:顧客重視
      • 組織はその顧客に依存しており、そのために、現在及び将来の顧客ニーズを理解し、顧客要求事項を満たし、顧客の期待を超えるように努力すべきである。
    • 原則2:リーダーシップ
      • リーダーは、組織の目的及び方向を一致させる。リーダーは、人々が組織の目標を達成することに十分に参画できる内部環境を創りだし、維持すべきである。
    • 原則3:人々の参画
      • すべての階層の人々は組織にとって根本的要素であり、その全面的な参画によって、組織の便益のためにその能力を活用することが可能となる。
    • 原則4:プロセスアプローチ
      • 活動及び関連する資源が一つのプロセスとして運営されるとき、望まれる結果がより効率的に達成される。
    • 原則5:マネジメントへのシステムアプローチ
      • 相互の関連するプロセスをひとつのシステムとして、明確にし、理解し、運営管理することが組織の目標を効果的で効率よく達成することに寄与する。
    • 原則6:継続的改善
      • 組織の総合的パフォーマンスの継続的改善を組織の永遠の目標とすべきである。
    • 原則7:意思決定への事実に基づくアプローチ
      • 効果的な意思決定は、データ及び情報の分析に基づいている。
    • 原則8:供給者との互恵関係
      • 組織及びその供給者は相互に依存しており両者の互恵関係は両者の価値創造能力を高める。
    • なお、2000年版改訂における審査登録の移行処置は、1994年改正に比べると、改正が大幅なものであった分、大掛かりなものであった。国際認定機関フォーラム(IAF)はISO/TC 176(当該規格の責任組織)及びISO/CASCO(適合性評価分野における標準化責任組織)と協同で2000年版移行のガイドラインを作成した。ISO 9000シリーズ規格を構築している組織は、総ての組織が2003年12月までの3年間の間に1994年版から2000年版への移行を完了しなければならないことになった。