ISO情報

新・世界標準ISOマネジメント(第3回)

平林良人「新・世界標準ISOマネジメント」(2003年)アーカイブ 第3回

1.1.3 数字でみるISOの活動

  • ISOの活動は、IECで標準化が進められている電気分野の標準化を除くすべての分野を対象としており、日本の国家規格であるJISよりも所掌の範囲が広い。ISOの活動は、1960年代から活発化してきた。これは、60年代の欧米での国際企業の登場や貿易拡大に伴う政府のハーモナイゼーションへの関心の高まりの結果である。また、60年代に独立した数多くの発展途上国は、法規制の不備を補足するよりどころとしてISOを導入し始めた。
  • 昔の話となってしまったが、1987年のISO 9000の発行は、ISOのイメージを大きく変えることになった。ISO中央事務局のフォレスト広報官は、「昔は『ISO中央事務局のフォレストです』と言うと、『ISO?』という答えが返ってきたが、最近では、『ISO 9000ですか?』と言われ、軒下の借家人に母屋を取られた」と苦笑していたという話を思い出す。
  • ISO中央事務局の故アイカー事務局長も、「ISO 9000品質マネジメントシステム規格が、1990年代初期に世界的な注目を集め、それとともにISOの名称は全世界の産業界の重役室にまで普及した」と、1997年、ジュネーブで開催されたISO創立50周年の式典でメッセージを述べた。
  • ISOの国際会議は1997年の場合、世界33カ国の国のどこかで、毎日、平均15回開催された。いかにISOの活動が広範囲で、頻度多く開催されているかがわかる。競争の激しい市場では、世界的な政策プロセスに参加することなく、世界的な地位を占めることができないと言われるように、日本ももっとISOの国際会議に参加することがますます重要となってきている。
  • 経済産業省では、2001年の機構改革でISOを軸とする基準認証分野の役割の重要性に鑑み、標準開発を推進する標準課、規格との適合性、規格に基づくMRA(相互承認)を推進する認証課、標準開発の基盤作りを推進する知的基盤課、全体の調整を行う基準認証政策課の4課からなる基準認証ユニットを新しく設けた。
  • ISO 9000という国際規格はISOから発行、ISO 9000の要求事項の一つであるトレサビリティの確保には、BIPMが証明する計測標準が必要で、その標準を供給する認定試験所にはILACからISO 17025(試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項)に基づく証明が発行され、そしてISO 9000の認証結果はIAFで登録といったような関係になっている。計測標準のなかでも、法律に基づくものはBILMで運用される。

1.1.4 ISO中央事務局の仕事

  • ISO中央事務局は、ジュネーブの駅前からレマン湖に向かって真直ぐ延びるモンブラン通りを下って、旧市内とは反対方向に湖畔沿いに20分も歩いたところの白いビルにある。ジュネーブを訪れる機会があれば、散歩がてら見学に行くのも面白い。
  • ISO中央事務局は、国際規格の発行、総会、理事会の事務局業務を行っているが、専門委員会(TC:Technical Committee)の業務は、各TCの幹事国を通じて行われる。
  • このため、ISO中央事務局よりもそれぞれのTCの幹事国と各国の国内委員会のほうがより多くの情報を共有している。例えば、ISO 9000ISO 14000の幹事国は、カナダ規格協会で、これに対応する日本の国内委員会は(財)日本規格協会に設置されたTC176およびTC207国内委員会である。ISO中央事務局は、国際規格の管理はするものの、内容については直接関与しない。このように国際規格の作成は、ISO中央事務局を頂点とした中央集権的な構造ではなく分散型システムとなっている。
  • このため幹事国を引き受ける機関は、規格作成に係る事務局経費から各国への印刷、資料発送、通信費に至る経費を自国で負担しなければならないため結構大変であるが、それと引き替えに国際規格作成に大きなイニシアチブをもつことができる。
  • マネジメントシステムの分野で、日本が提案したリスクマネジメントシステムに関する規格の幹事国を引き受けた(財)日本規格協会の吉村課長は、規格が出来上がるまでの苦労を次のように語っている。当初は、JIS Q 2001(リスクマネジメントシステム構築のための指針)をISO規格とするべく提案したが、各国のコンセンサスが整わず妥協策として、まず用語の国際規格を作ることとなった。コンセンサス作りにてこずった経験から議長を日本からオーストラリアに変更し、用語の作成に取りかかった。議長と幹事国が別々となったため、事前の打ち合わせに時間を要した。途中、IECが国際規格案に反対を唱えるなど波乱があったが、2002年、ISO/IECガイド73(リスクマネジメントシステム-用語集-規格において使用するための指針)を発行した。