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新・世界標準ISOマネジメント(第32回)

平林良人「新・世界標準ISOマネジメント」(2003年)アーカイブ 第32回

3.4.2 食品安全マネジメントシステム規格とHACCP

  • 1)食品安全マネジメントシステム規格の開発
  • HACCPの構築、認証は民間機関(多くは、ISO 9000,14000審査登録機関)でも従来から盛んに行われてきており、HACCPとISO9001との組み合わせによる審査登録(ここではHACCP+ISO9000と呼ぶことにする)が最も食品業界にポピュラーな方式として定着してきた。
  • これら審査登録機関は、HACCP+ISO9000の認証基準を各組織独自に作成してきたが、HACCP+ISO9000の審査登録機関が増えるに従って、審査基準がバラバラであるのは都合が悪いとの声が出てきた。労働安全衛生マネジメントシステムの審査基準がバラバラであると都合が悪い、との声でOHSAS18000シリーズ規格が出来たのと同様な状況が出てきたのである。
  • 労働安全衛生の場合は、英国BSIがコンソーシアムを作りイニシャティブを取ったが、HACCP+ISO9000の場合は、ISO/TC34(農産食品)が基準作成のイニシャティブを取った。
  • 1995年10月 ISO/TC34はHACCP+ISO9000のガイド規格のCD1をコメント収集のためメンバーボディに回付した。その後紆余曲折はあったが、ISO/DIS15161 「ISO9001及び9002の食品及び飲料産業への適用についての指針」は、1998年7月投票に付され一回は否決されたが、2001年11月規格は成立した。このISO15161:2001規格の正式名称は「Guidelines on the application of ISO9001:2000 for the food and drink industry:ISO9001:2000の食品・飲料産業への適用に関する指針」である。
  • なお、ISO15161規格は、HACCPをISO9001:2000規格に適用するガイド規格であって審査登録用の仕様規格ではない。2001年6月 ISO/TC34は、ISO 22000「Food Safety Management System-Requirements:食品安全マネジメントシステム-要求事項」規格の開発に入った。日本は、TC34の正式メンバーになっておらずオブザーブ参加であるが、議事録の入手は可能である。
  • ISO22000規格は、ISO9001の要素を取り入れながら、かつHACCP、一般衛生管理も含む食品安全マネジメントシステムの規格であり、2004年末のISO規格化を目標に活動が推進中である。
  • この規格が発行されると、世界中の食品・飲料産業における食品安全マネジメントシステムの基準になることが予想され、この規格に基づいた審査登録も行われることが予想される。
  • 2)HACCPの歴史
  • 1959年米国NASA(National Aearo-nautics Space Administration:米国航空宇宙局)は、宇宙飛行士の宇宙での食事の安全を確保するため民間企業に新しい食品の安全管理の方法を募集した。NASAは、従来の検査による品質管理では宇宙飛行士の食事の安全を確保出来ないと判断したためである。
  • この募集に応募して採用されたのが米国企業ピルスベリー社の食品安全管理システムで、HACCPと呼ばれるようになった。HACCPは、Hazard Analysis and Critical Control Pointの略称である。これは、食品の安全を確保する為に、予め予想される危害を分析しその危害を防止する為の重要な管理点を設定し、その重要な管理点を集中的に管理すれば食品の安全は確保出来るとしたものである。
  • この考えは、従来の受け身的な安全管理ではなく、食品の安全を先取り管理した予防的な安全管理である。HACCPは一般の品質管理と異なり、製品の製造工程に管理基準を設定し、その基準が満たされればそこから生産される製品の安全は確保される、とする品質管理である。
  • 1973 年に米国FDA(Food Drag Agency:食品医薬品庁)により低酸性缶詰食品のGMP(適正製造基準)の中に、この方式が取り入れられた。これは世界で始めて行政機関がHACCPの概念を法規制の中に導入したものである。
  • しかし、一部の大手企業で自主衛生管理の方法として採用されたにすぎず、広く普及することはなかった。その後、1985 年に米国科学アカデミ-の食品防護委員会が、食品生産者に対してHACCP システムを積極的に導入すること、行政に対しては法的強制力のあるHACCPシステムの採用を勧告したことから、注目されるようになった。
  • 1987 年には、この勧告を受けてUSDA ・FSIS(米国農務省 食品安全検査局)、NMFS(米国水産局)、FDA 及び米国陸軍Natick 技術開発研究所の4つの政府機関ならびに大学や民間の専門家から構成されたNACMCF(The National Advisory Committee on Microbiological Criteria for Food:食品微生物基準諮問委員会)が設置され、1989 年に、この委員会から“米国におけるHACCP システムのガイドライン”ともいうべき報告書が提出された。
  • ここで初めて“HACCPの7原則”が示され、体系的なものとなったのである。さらに1992 年には、食品企業を対象にしたガイドラインの修正文書が公表された。
  • 1995年以降、米国ではこのガイドラインに基づいた法的強制力のある衛生監視法が施行されている。FDA からは魚介類の加工・輸入時の安全性確保に関して、またUSDAからは1996年より食肉、食鳥肉とそれらの製品の取扱いに関して、HACCPシステムの適用が義務付けられた。
  • 米国以外の国々でも、HACCPシステムは確実に定着してきている。カナダでは、HACCPの実施が法制化(農務省管轄)されており、EU(欧州連合)でも、HACCPを指令として制定している。米国、EU等では、輸入製品にもHACCP システムの適用が義務付けられている。またオーストラリア、ニュージーランドでは、食肉加工製品、乳製品等に広く適用されている。