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内部監査の実践(その23)

「設計審査標準 KDR105」を対象にした内部監査の実践について話しています。
前回(22号)は、「新しい物語作り」の「承」のストーリーを掲載しました。今回は「転」です。

その前に「ナラティブ内部監査」の5ステップをここで説明します。

  • 第1ステップ : 今行っている内部監査をレビューする。
  • 第2ステップ : どのような内部監査を行いたいか、行うべきかを組織内でコンセンサスを得る。
  • 第3ステップ : 内部監査員、被監査者の共同作業の基盤を作る。
  • 第4ステップ : 発見された問題(不適合、観察事項、気づき事項)などを解決する。
  • 第5ステップ : 問題解決したことを水平展開、歯止めして改善する。さらに、改善したことを革新へのインプットにする。

【転】の物語に入る前に、第2ステップの説明をします。
【第2ステップ:どのような内部監査を行いたいか、行うべきかを組織内でコンセンサスを得る。】
ナラティブ内部監査実践のための5ステップでキーとなる重要なステップです。この第2ステップが成功裏に行けばナラティブ内部監査は大きく前進します。内部監査の目的を首尾よく達成する活動がナラティブ内部監査ですが、内部監査の目的をはっきりさせる、「どのような内部監査を行いたいか、行うべきかを組織内でコンセンサスを得る」ことは絶対に必要なことです。
第2ステップでのポイント1は、トップが内部監査の目的を正しく理解して、組織全体に内部監査の重要性を指揮し支援をすることです。ISO9001箇条5.1 h) にもトップへの要求として「h) 品質マネジメントシステムの有効性に寄与するよう人々を積極的に参加させ,指揮し,支援する。」とされています。しかし、現実には忙しいトップが内部監査の目的を正しく理解することはなかなか難しいようです。
ポント2は「自分たちで事例を作ろう」というものです。世の中の動きをみますと、トップダウンで成功した例とボトムアップで成功した例の2つがあります。ポイント1はトップダウンですが、ポイント2ボトムアップです。物事で力があるのは実績であって、理屈はその裏付けでしかありません。組織全体が内部監査の重要性を理解するには、実行した結果の効果を見てもらうことが一番実効性があります。
ナラティブ内部監査を実施して、組織パフォーマンス向上への効果が得られれば、組織の(内部監査の目的についての)コンセンサスは得られやすくなるでしょう。

<指摘事項2>の【転】を実施してみましょう。
【転】は、いまからどうするのかについて書きます。

  • いまについて【起】といままでについて【承】で議論してきたことを踏まえ、今後改善すべきことを議論する。
  • どのようになれば問題が解決できるか考える。
  • 問題が解決すると、どんな成果が組織にもたらされるか考える。

(議論)
内部監査員:設計担当者が設計審査で指摘されたことを確実に評価し、もし設計変更、設計改善をする必要があると判断した場合、どのような変更、改善をしたかについて記録があると良いと思います。

被監査者:記録を取るには時間がかかります。取った後何のために使うかを明確にしておきたいですね。記録の種類として考えられるものにはいろいろあります。

  • ―指摘事項を評価したという記録
  • ―設計変更、設計改善など評価結果に関する記録
  • ―設計変更、設計改善を行ったという記録
  • ―下流工程で成果に結びついたという記録
  • ―市場で成果があったという記録

内部監査員:多くの記録があり得ますが、何のために記録を取るのかは、次のためと言えると思います。

  • 確実に行ったという証拠
  • 後日の評価のため
  • 統計を取るため など

市場クレームの原因を解析すると、設計に起因する原因が7割を占めるというデータがあります。

被監査者:上流の業務の質は下流の業務の質に多大な影響を与えることになりますので、DRが重要であるということは十分に分かっています。したがって、設計者が評価した後の記録が無いことは問題だと思いますので、仕組みを考えたいと思います。

内部監査員:上流の業務に何らかの欠陥が含まれていると、下流での業務が無駄になることもありますね。しかし、設計のどこの部分が中間製品、最終製品のどこに影響するのかを事前に特定することは至難の業ですね。

被監査者:だからこそ、DRが重要だと思っています。「設計のどこの部分が中間製品、最終製品のどこに影響するのかを事前に特定すること」は、技術、製造、品証、調達などの下流の現業部門の力を借りないととても設計だけでは発見できません。

内部監査員:設計においては、「初めて、久しぶり、変更」と言われる3Hは重要な概念です、設計標準化の面も含めて「設計審査標準 KDR105」を見直しましょう。

被監査者:そうですね。しかも、決めたら守るという教育も必要ですし、何よりも実践において守ることの出来る内容にしたいと思います。
(つづく)