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ISO9001内部監査の仕方(第2回)

平林良人「ISO9001内部監査の仕方」アーカイブ 第2回

これは1994年に日科技連出版社から出版されたものです。以下は本書の趣旨です。
「第三者である審査登録機関が,6カ月おきに,審査登録した会社(組織)に対して立入調査をするのが代表的なフォローアップの仕組みであり,サーベイランスと呼称されている。審査登録を済ませた会社は,この仕組みによって半ば強制的に,確立した品質システムを見直しさせられる。しかし,外部からの圧力によって品質システムの見直しを実施するというのは,ISO 9000/JIS Z 9900シリーズ規格の本来の考え方ではない。ISO 9001 / JIS Z 9901規格の条項中に次の規定要求事項がある。
『「4.1.3 マネジメント・レビュー(経営者による見直し):執行責任をもつ供給側の経営者は,この規格の要求事項及び供給者が定めた品質方針及び品質目標を満足するために,品質システムが引き続き適切,かつ,効果的に運営されることを確実にするのに十分な,あらかじめ定められた間隔で品質システムの見直しを行うこと。この見直しの記録は,保管すること。』
このことを経営者は肝に銘じて内部監査を自分の代行として行うことを組織内に徹底することが肝要である。」


1.3 品質マニュアル
品質マニュアルは,供給者の組織の品質システムを総括的に文書に書き表したものである。
総括的に書き表すと簡単に述べたが,品質システムをどのように書き表すかは実はなかなかむずかしい課題である。
品質マニュアルを編集する場合の10のポイントを要約すると次のようになる。

  • (1)全体の構成をシンプルに親しみやすく
  • 目次,見出しをしっかりと作成し,目次を見れば全体の内容が概略理解できるようにしておく。
    • ISO 9000シリーズ規格が要求している項目についてすべて記述する。
    • 巻末には“引用文善一覧”を付録としてつける。
  • (2)主語をはっきりと
  • 日本語の特徴であろうか,主語のない文章が多いが,主語を明確にしてその業務の責任がどこにあるのかを明確にしなくてはならない。
    • どこの部門が主幹なのか記述する。
  • (3)適当な幅と深さを
  • 品質マニュアルを編集するときにいちばん迷うのは,品質マニュアルのなかに“何を”“どのくらい”記述すればよいかという点である。ここに大きな森があるとしよう。この森をできるだけ簡潔に,しかも概要を理解できるように記述しなさいと言われたとする。われわれはまず森の大きさ,木の種類,その特徴を記述するであろう。この際に,木々の特徴を記述するのに大きな幹と枝の説明をしても,木の葉の説明をすることは特別の理由がないかぎり必要あるまい。
    • 品質マニュアルの使用目的をよく考えて,要領よくかつ十分に記述する。
  • (4)自分の言葉で書く
  • 企業はそれぞれ独自の歴史と業容を持っており,品質マニュアルにはその企業独自のものが結果として出てくるはずである。10万の企業があれば10万種の品質マニュアルが存在する。
    • 品質方針は社長が自分の言葉で書く。
  • (5)具体的に記述する
  • 標準,基準の作成においてよくいわれるたとえであるが,上の人が「火の用心」といったら,下の人はなんと答えなければならないか?下の人がまた「火の用心」と答えたら何をか言わんやである。
    • 品質マニュアルの記述においては,できるだけ誰が,何を,いつ,どこで,どのように,の5W1Hを活用して記述する。
  • (6)テーラリングを考える
  • ISO 9000-1規格の8.4.1項にはTailoring(修整)という言葉が載っている。Tailorというのは洋服屋,仕立屋のことである。ISO 9000シリーズの基本的なコンセプト(概念)は,全体のガイドを規定要求事項という形で与えているが,それは決してすべてが強制的なものではないということである。
    • 企業各社の実情に合わせて,最も展開,運用しやすい独自の品質システムを確立し,それを品質マニュアルに記述する。
  • (7)生きている品質マニュアルを
  • 品質マニュアルは常に会社の現状を表していなければならない。企業は生き物である。常に変化し,環境に順応していかなければならない。そのために,企業ではときどき組織変更を実施するが,品質マニュアルはこうした変更を常に改訂に結び付け,最新の品質マニュアルを維持していかなければならない。
    • 常に現状を書き表した品質マニュアルを維持する。
  • (8)箇条書で平易な文章で
  • 具体的な記述は箇条書であると読みやすい。また,企業にはそれぞれ独自の社内用語や言い回しがある。できるだけそうした社内表現は避け,標準的な用語を用いる。
    • 一度読めば内容が理解できるようにする。
  • (9)表,フローチャート,図解を用いる
  • 品質マニュアルは,読むことを中心とした編集にならざるをえないが,次の項目においては表,フローチャート,図解などを用いる。
    • 組織図の説明,文書体系,工程フローなどについては,表,フローチャート,図解などを用いる。
  • (10)表現は現在形で,誤字,脱字,当て字のないこと
  • 表現は原則的に現在形で行う。また全体の信用を傷つけないように誤字,脱字,当て字のないことが重要である。
    • 品質マニュアルは,全体を規定する基本文書にふさわしい,信頼度の高いものに仕上げる。

1.4 品質計画書
品質計画書の定義は,ISO 9004-1“品質管理及び品質システムの要素 ― 第1部 指針の3.4項によると次の通りである。
「特定の製品,プロジェクト又は契約に関する固有の品質業務,経営資源及び活動順序を規 定した文書。
参考 品質計画書は,通常,品質マニュアルの該当箇所を参照して,個々の場合に適用するように作成する。/計画書の適用範囲に応じて,例えば“品質保証計画書”,“品質管理計画書”と修飾語を用いることがある」
また同じく5.3.3項によると次の通りである。
「経営管理者は,ある製品又はプロセスに対しても,品質計画書の作成及び維持が確実に 行われるようにする。品質計画書は,組織の品質システムの他のすべての要求事項と整合さ せ,製品,プロジェクト又は契約の規定要求事項が確実に満たされるようにする。品質計画 書は,より大きな全体計画書の一部としてもよい。品質計画書は,新しい製品又はプロセス に対して,若しくは現在の製品又はプロセスが大幅に変わった場合に特に必要となる。
品質計画書では下記の事項を明確にする。

  • a)達成すべき品質目標(例えば,特性又は仕様,均一性,有効性,外観,サイクルタイム,コスト,天然資源,利用度,収量及びディペンダビリティ),
  • b)組織が実施する事項を構成するプロセスのステップ(流れ図又は類似の図を用いてプロセスの要素を示してもよい),
  • c)プロジェクトの各段階における責任及び権限の割当て,
  • d)適用すべき手順書及び指示書,
  • e)適切な段階(例えば,設計及び開発)における,適切な試験,検査,調査及び監査の計画,
  • f)プロジェクトの進行に伴う品質計画書の変更及び修正のための手順書,
  • g)品質目標の達成度を測定する方法,
  • h)目標の達成に必要なその他の手段。

品質計画書は,適切ならば,品質マニュアルの中で記述又は引用してもよい。
品質計画書の目的の達成のために,この規格に記述されているような運用管理の文書を用いる。」
したがって,品質計画書は個々の製品,サービス,契約またはプロジェクトについて,品質業務,経営資源,および活動順序を定めた文書である。表1.1,1.2にその一例を示す。
ここの例では品質計画書の総括部分になるものだけを示しているが,実際には,別紙として表1.2の一番右欄にある既存規定・基準・標準の中から選んだ必要な文書を添付する場合が多い。この選択をする場合規格の要求事項4.1経営者の責任~4.20統計的手法をチェックポイントとして活用する。
別紙としてどの程度のボリュームの文書を添付するかは,個々の製品,サービス,契約または,プロジェクトによって異なる。従来培ってきた固有技術あるいは今迄の経験ではコントロールできそうもない新製品の品質を顧客に保証する際に,どこの部分が弱いのかをどのように判断するかによる。
比較的構造が単純な製品の場合には,別紙として添付する文書は少ないであろうのに,複雑な製品になると別紙として添付する文書は膨大なものになるかもしれない。この判断を実施するのに規格の要求事項4.1経営者の責任~4.20統計的手法をチェックポイントとして活用するのがよいわけである。表1.3にその1つの例を示す。

1.5 文書化の限界
文書化した品質システムはISO 9000’S規格を通じての必須事項として位置づけがされており,ISO 9000-1 5章“文書化の役割”の中には次の記述がある。

  • 「5.3 品質改善をサポートする手段としての文書化
  • 文書化は,品質改善のために重要である。手順が文書化され,展開され,実施されると, 仕事が現在どのようになされているかを自信をもって判断できるし,現在の達成度を測定することができる。それによって,変更した場合にその効果測定の信頼度を向上させることができる。さらに,標準の操作手順を文書にしておくことは,品質改善活動によって得られる利益を維持するための基本である。」
    しかし文書化には限界がある。業務の進め方総てを文書化することはできないし,またするべきでもない。業務の進め方をどこのレベルまで文書化するのかはよく検討されなくてはならない。
    同じくISO 9000-1 5章“文書化の役割”の中には次の記述がされている。
  • 「5.4 文書化と教育・訓練
  • 文書化,技能及び要員の教育・訓練を組み合わせた結果として,展開され,実施されている手続の一貫性を維持することができる。いずれの状況においても,文書化の程度と技 能と教育・訓練の程度との間の適切なバランスを追求し,文書化を適切な間隔で維持できる程度の妥当な水準に保つべきである。品質システムの監査は,この必要なバランスに留 意しつつ行うべきである。」
  • 特に技能の文書化はある程度は実施できても,最終的には人に頼らざるを得ない。上述の“文書化の程度と技能と教育・訓練の程度との間の適切なバランス”とは,この人に頼らざるを得ない部分と文書化とを,どの程度の割合いにしていくのかを問うているのである。
  • 以上の事から文書化は,次の観点からその掘り下げ方のレベルを考えていくべきである。
    • ① 組織の成熟度
      組織の縦と横のコミュニケーション度。
    • ② 人の成熟度
      組織を構成している人の熟練度。

組織も人も変化,流動する。したがって社歴が長いから,あるいは短いからという理由だけで文書化のレベルを変えるわけにはいかない。たとえ社歴が長くても新しい未経験の仕事をする場合もあるだろうし,熟練工が退職していくことがあるかもしれない。
文書化にはメリットもデメリットもあることをよく理解して取り組んでいくことが大切である。
(1)文書化された品質システムのメリット

  • ① 事業体の従業員全員に,品質保証について,明確にその意図するところを伝えることができる。
  • ② 品質保証について,経営トップから組織の全体に至るまで,その責任をより明確にすることができる。
  • ③ 品質保証について,経営トップから組織の全体に至るまで,その権限をより明確にすることができる。
  • ④ 文書化することによって,その事業体の品質保証の全貌を,内外により効果的に提示することができる。
  • ⑤ 品質問題を未然に防止することができるとともに,万が一問題が発生した場合でも課題の解明と対策の実施ガイドとして活用することができる。

(2)文書化された品質システムのデメリット

  • ① 品質システムの実態が時間の経過とともに変化していくため,常に文書の更新に努めなければならず,大きな工数がかかる。
  • ② 文書化にあたっては正常な状態を想定して記述することが多く,異常時あるいは緊急時の対応に適さないことがありうる。
  • ③ 文書化をあまり進め過ぎると,組織が硬直化して,柔軟な対応ができなくなる恐れがある。

表1.1品質計画書(例)
                            発行日 ○○年○○月○○日
製品名:A製品  製品コード:NP-1001   発行部署   品質保証部   承認 確認 作成
1.品質目標
1.1 製品仕様書に盛り込まれている製品特性の確保
1.2 工程内の不良率          量産開始~3カ月目    10%以下
                   4カ月目~6カ月目     2%以下
                   6カ月目以降        1以下
 
1.3 市場不良率(戻入率)       販売開始~3カ月目     2%以下
                   4カ月目~6カ月目     1%以下
                   6カ月目以降        0.3%以下
1.4 重大クレーム                        0件
1.5 購入品(外注品)受入合格率    量産開始~3カ月目     2%以下
                   4カ月目~6カ月目      1%以下
                   6カ月目以降        0.3%以下受入検査廃止
1.6 設計改善             初年度 10件        2年度  20件
1.7 1.6項以外の業務改善提案     初年度 100件       2年度  150件

2. プロジェクト・ステップ別責任および権限
 2.1  品質計画書,フローチャート参照
 2.2  プロジェクト・ステップの同一枠内の部署が責任部署であるが,複数部署が存在する場合は*印の部署が責任部署となる。

3.適用規定,基準,標準,監査プロクラム
 3.1 品質計画書,フローチャート“既存規定,基準,標準”欄を参照
 3.2 A新製品に適用する図面,指示書,手順書は,各発行部署がその部門マニュアルの中に編集し,管理する。
 3.3 A新製品の設計審査,試験,検査,調査,妥当性確認,監査などのプログラムも3.2項に準じて発行部署がその部門マニュアルの中に編集し,管理する。

4.品質計画書の変更,改訂
 4.1 この品質計画書の変更と改訂はKQMlO6「品質標準書制定基準」に則り品質保証部長が実施する。

5.その他
 各部門はA新製品推進にあたって,2項,3項の詳細計画を策定し,この品質計画書の別紙として添付し,その達成を管理する。

6.配布
品質計画書添付書類一覧
製品名:A製品   製品コード:NP-1001  発行部署  品質保証部

品質目標を達成するためには,製品の企画から出荷据付までの総ての工程の確立が大切であるが,A製品の市場における品質の保証,工程内の歩留り向上を分析すると次の2点が特に重要管理ポイントである。
 1.設計
 2.工程管理
以上の観点からこの品質計画書には次の標準書を添付し,その中に規定されている事柄の尊守をプロジェクト推進メンバー全員に喚起する。

  • ① 仕様制定標準      KDR 101
  • ② 設計審査標準      KDR 105
  • ③ 設計試作標準      KDR 104
  • ④ 設計評価標準      KDR 107
  • ⑤ 量産試作標準      KTM 101
  • ⑥ 加工図面管理標準    KTM 105
  • ⑦ 工程品質管理標準    KPT 101
  • ⑧ 作業指示書制定標準   KPT 102
  • ⑨ 製品監査標準      KQM 116