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ISO9001内部監査の仕方(第4回)

平林良人「ISO9001内部監査の仕方」アーカイブ 第4回

これは1994年に日科技連出版社から出版されたものです。以下は本書の趣旨です。
「第三者である審査登録機関が,6カ月おきに,審査登録した会社(組織)に対して立入調査をするのが代表的なフォローアップの仕組みであり,サーベイランスと呼称されている。審査登録を済ませた会社は,この仕組みによって半ば強制的に,確立した品質システムを見直しさせられる。しかし,外部からの圧力によって品質システムの見直しを実施するというのは,ISO 9000/JIS Z 9900シリーズ規格の本来の考え方ではない。ISO 9001 / JIS Z 9901規格の条項中に次の規定要求事項がある。
『「4.1.3 マネジメント・レビュー(経営者による見直し):執行責任をもつ供給側の経営者は,この規格の要求事項及び供給者が定めた品質方針及び品質目標を満足するために,品質システムが引き続き適切,かつ,効果的に運営されることを確実にするのに十分な,あらかじめ定められた間隔で品質システムの見直しを行うこと。この見直しの記録は,保管すること。』
このことを経営者は肝に銘じて内部監査を自分の代行として行うことを組織内に徹底することが肝要である。」


2.2 内部品質監査とは
内部品質監査は,品質マニュアル/標準書に対して,現場の実際がどうなっているのかを調査して,品質システムが効果的に機能しているかを検証する監査活動である。ISO 9000 シリーズの規定要求事項4.17には内部品質監査が規定されており,それによれば「供給者は,品質活動及び関連する結果が計画されたとおりになっているか否かを検証するため,及び品質システムの有効性を判定するために,内部品質監査を計画し実施するための手段を文書に定め,維持すること。/内部品質監査は,監査される活動の状況及び重要性に基づいて予定を立て,監査される活動の直接責任者以外の独立した者が行うこと。…‥」となっている。
内部品質監査は品質システムの監査ではあるが,第三者による外部品質監査とは違って不適合を指摘することが目的ではない。品質システムが有効に働いているかどうかの内部見直しであり,弱点と状況変化に基づいた品質システムの改善を提言するものである。
外部品質監査では,不適合の指摘において,その是正処置,解決策は,被監査者に委ねられるのが通常である。第三者機関の審査においては,監査員は通常,勧告はしない。してもごく簡単な勧告である。
それに対して内部品質監査では,監査員が積極的に是正処置に関わるのが通常である。不適合の実態をよく知っている監査員が,是正処置,解決策に関わることによって,効果的な対策が迅速にとられることが期待できる。したがって内部品質監査は,会社にとっては極めてニーズの高い全社活動といえる。
内部品質監査は,ISO 10011-第1部,10011-第2部,10011-第3部を参考に実施するとよい。

2.2.1 内部品質監査の特徴
内部品質監査と外部品質監査は基本的には同じであるが,内部品質監査には次のようないくつかの特徴がある。

  • ① 外部品質監査が短時間の1回の監査なのに対して,1年間の年間計画として展開していくことができる。
  • ② 外部品質監査が品質システムの全体を監査するのに対して,内部品質監査はある領域の活動に特定して監査していくことができる。
  • ③ 内部の人が監査員となって実施するために,工程の多く,組織や人に対して非常に精通している。

内部品質監査の目的は,社内の品質システムを改善していくことにある。内部品質監査を実施することを1つの契機として,被監査者の品質システムの維持と品質レベルの向上を目的としている。

2.2.2 内部品質監査の概要
一般的に内部品質監査の実行は次の順序によって行われる。

  • ① 経営者層が内部品質監査の実施を社内に指示,徹底する。
  • ② 社内における内部品質監査責任者を決める。
  • ③ 社内に内部品質監査事務局を設置する。
  • ④ 品質マニュアルを頂点とする社内標準書類の見直しを行う。
  • ⑤ 不足標準書類を作成し,制定する。
  • ⑥ 内部品質監査員を養成する。
  • ⑦ 内部品質監査年間計画を作成,準備をする。
    • 被監査部門と協議して,適切な日程とプログラムを決める。
    • 品質マニュアル,社内標準書類の品質要求事項をよく把握する。
    • それまでの被監査部門の内部品質監査報告書を読む。
    • チェックリスト/質問書を作成する。
  • ⑧ 内部品質監査を実施する。
  • ⑨ 内部品質監査で発見された不適合事項を是正する。
  • ⑩ 内部品質監査結果とその是正結果報告書に基づいて経営者による見直しを実施する。
  • ⑪ 毎年,⑦~⑩を繰り返す。

内部品質監査の実施の概要は次の通りである。

  • ① 初回会議の実施:監査員/被監査者の紹介,監査の範囲と目的の確認,監査の方法の説明,監査チームが必要とする資源・設備の確認,まとめ会議・最終会議のスケジュールの確認。
  • ② 調査の実施:証拠の収集,観察結果の陳述。
  • ③ まとめ会議,最終会議の実施。
  • ④ 監査報告書の作成。
  • 内部品質監査員は,内部品質監査につきものの次の危険性について常に注意を払わねばならない。
  • ① 監査員は被監査者より社内的地位が低いかもしれない。そのために被監査者は,もし監査がうまく進まないと高圧的な態度に出るかもしれない。
  • ② 監査員が内部の人々をよく知っているので,いろいろな判断を行うときに客観性を失う恐れがある。

2.2.3 内部品質監査の陥りやすい事項
内部品質監査は,外部品質監査と違って外からの圧力がない。継続的に効果的な内部品質監査を実施していくためには,経営者層が相当な努力をしていかないとむずかしい。スタート時ま比較的全社的な注目を得やすいが,時が経つにつれてだんだんに鮮度を失いマンネリ化していく。
内部品質監査でよく見うけられる欠陥は次の通りである。

  • ① 内部品質監査が実施されていない。
  • ② うわべだけの監査が実施されている。
  • ③ システムの部分的な監査だけが行われている。
  • ④ 監査スケジュールがない。関係者に時間があるときだけに行われる。
  • ⑤ 不適合報告へのフォローアップがない。
  • ⑥ 品質システムの経営者による見直しが行われない,また計画もない。
  • ⑦ 監査を訓練されていない無経験な人が行っている。

これらのすべては,経営者の無関心が作り出す症状である。社内においては,監査をしたりされたりする両者の立場に立つことは多くの人々にとって普遍的なことである。ある日,あなたは監査員かもしれないが,次の日は被監査者かもしれない。したがって,時が経つにつれて多くの人々が内部品質監査に接触し,内部品質監査とは何かを理解する。従業員の内部品質監査への理解をどのようにして継続的なものにしていくかは経営者層の責任である。

2.2.4 被監査者としての役割
内部品質監査は事実を把握することが最も重要である。実態がどうなっているのかを,包み隠さず表に出すことによってのみ,次の対策につなげていける。
ややもすると,不適合の数が被監査部門の評価につながる(悪く評価される)と考える部門責任者がいるかもしれないが,これは大きな間違いである。不適合が発見されればされるほど,是正処置が根本原因にまで遡って適正にとられる。隠されているところが多ければ多いほど,是正処置は中途半端に終わってしまう。したがって,従業員には次のことを徹底すべきであろう。
あなたが内部品質監査の被監査者の立場にいたら,次のことをすべきである。

  • ① 自ら進んで情報を提供する。
  • ② どんな欠陥でも報告する。
  • ③ 標準書などの不備についての見解を表明する。
  • ④ もし,単に発見された不適合を直すだけでは内在している原因は取り除けないと感じたならば見解を表明する。
  • ⑤ 監査員の質問の真意をよく確認して質問に答える。
  • ⑥ あなたの部門と関係ある部署の問題点については監査員に話す。

しかし,外部品監査の場合は内部品質監査と異なった目的があるため,従業員には次のことを徹底しておいたほうがよい。
あなたが外部品質監査の被監査者の立場にいるときは,次のようにすべきである。

  • ① 質問されたことにだけ答える。
  • ② 誠実である。
  • ③ 会社の欠陥を大きく取り上げることは差し控える。
  • ④ 知らないことについては「私は知らない」と言う。

2.2.5 内部品質監査の種類
(1)年間計画型(部分監査)
会社内には課なり部なりの業務を規定している標準書類が数多くあるが,これらの標準書類を対象に年間計画を作成し,監査を推進していくタイプである。
計画作成においてどのような順序で内部品質監査を進めていくべきかが課題に上るが,次の3種類から選択するとよい。

  • ①〔タイプ1〕業務の流れにそって:たとえば営業,設計から始まって技術,製造,検査,出荷と,業務の川上から川下へと順序よく監査を進めていく方法(表2.2)。
    川上から監査を進めることによって,業務の川下への展開についてよく見える反面,川下からの観点,たとえば製造の立場からの監査は弱く,問題点を見失いがちである。内部品質監査のシステム確立初期に実施されるタイプである。
  • ②〔タイプ2〕業務の流れを遡って:たとえば出荷から始まって検査,製造,技術,設計,営業へと業務の川下から川上へと順序よく監査を進めていく方法(表2.3)。
    出荷から出発して業務を遡って監査を進めるため,製品のトレーサビリティなどの監査を行うにはうってつけの方法である。製造現場からの視点で業務のフローを追っていくこともできる。逆に全体の仕組み,業務の進め方が見にくくなる傾向がある。やはり,内部品質監査のシステム確立初期に実施されるタイプである。
  • ③〔タイプ3〕業務の流れではなく,ある項目について:たとえば“文書及びデータの管理”という1つの条項について業務の流れとは無関係に組織を横断的に監査していく(表2.4)。
    内部品質監査に慣れてくると実施して効果の上がる進め方である。監査テーマに何を選択するかによってその実効が変わってくる。監査テーマ例としては表2.4に示すようなものがある。

この年間計画型において使用される社内標準書類を対象にしたチェックリストを“内部品質監査チェックリストA”と呼ぶ(付録を参照)。
年間計画型の内部品質監査の目的は,「継続的に品質システムの要素を見直すなかから,不適合箇所を見つけ,その対策をとることによって改善をはかる」ことにあり,「不適合を見つ

表2.2 タイプ1の内部品質監査(業務の流れにそって)(略)
注〕 準備 監査 フォロー 報告書 の4ポイントにおいて実施ごとにスペースを塗りつぶしていく。たとえば、準備が完了した場合は☒監査を実施した場合は☒

表2.3 タイプ2内部品質監査(業務の流れに遡って)(略)

けること」はあくまでも改善のための手段であり,目的ではない。
また品質システムの展開状況を詳細にチェックするために,品質マニュアルの下位に位置する標準證類が重要な役割を果たすことになり,品質監査のチェックリストもこれからの標準證類に対して作られる。

表 2.4 タイプ3の内部監査品質監査(業務に関係なく項目ごとに)(略)

(2)短期展開型(全体監査)
年間計画型(部分監査)が「改善をはかる」ための内部品質監査であるのに対して,短期展開型は「不適合を見つける」ことを第1目的として行う,システム全体を短期間で実施する監査である。もちろん「不適合を見つける」ことを目的としているとはいっても,その後,是正処置をとり,対策を講じるなかから改善をはかっていくことが必要なことはいうまでもない。この内部品質監査は,第三者による審査登録監査のいわば内部版であり,3~4日間で全体のシステムがどのように展開されているのかを判断できるように計画する。
次のような場合に実施を計画するのがよい。

  • ① 定期:年間計画のなかにこの全体監査を定期的イベントとしてスケジュール化しておく。もし第三者による審査登録がすでに実施されている場合には,6カ月ごとに実施されるサーベイランス(品質査察)の1カ月くらい前に実行を計画しておくことが有用であろう。
  • ② 重要品質問題発生時:重大クレームが発生し,その原因を調査していく過程で品質システム全体にわたる欠陥が想定されるようなときには,急遽短期展開型の全体監査を実施し,不適合の発見~是正処置をとる。

年間計画型が,社内の標準書類を対象に詳細な監査を実行するのに対して,この短期展開型の内部品質監査は品質マニュアル(ISO 9000 シリーズ規格)を対象にして実施する。この品質マニュアルを対象として作成されたチェックリストを“内部品質監査チェックリストB”と呼ぶ(付録を参照)。

2.2.6 内部品質監査の種類の選択
前項で述べたように内部品質監査には,年間計画型(部分監査)と短期展開型(全体監査)の2種類があるが,企業によっては限られた資源でとても2種類の内部品質監査を実施する余裕がないところもあるであろう。
筆者は内部品質監査の本質を次のように考えている。

  • (1)組織にはその仕組みを作った理由(背景)があり,その理由(背景)にもとづいた責任・権限が決められている。
  • (2)組織には決められた責任・権限にもとづき仕事の進め方を手順化した標準,規定が存在する。
  • (3)以上の2項目はいずれも組織が効率良く運営されるためのツール(道具)である。
  • (4)ツールが上手に使われているかいないかは組織運営上その効率に大きく影響を及ぼす。
  • (5)もしツールが上手に使われていないとすると,その理由は次の2点に絞ることができる。
    • ① ツールの使い手が悪い。担い手である従業員が使い方を知らない,知っていてもめんどうくさい等の理由で無視をしている。
    • ② ツールが古い。規定そのものが実態に合っていない。
  • (6)前項の実態を明らかにして,改善処置を取ることが非常に重要である。

したがって内部品質監査は,従業員が日常日々現場(現場とは工場だけではなく設計,事務部門も現場と定義する)で業務を遂行している実態を確認することが基本となり,そのためには部分監査を積み上げていく年間計画型でなくてはその目的を完遂することはできない。
幸いにして全体監査については,現行の審査登録システムの中において審査登録がなされると審査登録機関が6カ月おきに実行することが慣習になっているので,緊急的な重要品質問題が発生した事態以外は,外部監査にまかせたらよいのではないかと思う。
内部品質監査の本質は部分監査の積み上げにあることを強調しておきたい。