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品質不祥事(その14):2000年前後の事例

日本の戦後のミラクルと言われた先進国入りの原動力は、製造業国際競争力の圧倒的な強さにありました。その強さの中核にあったものが「品質保証」でした。昨今の品質不祥事は70年に渡って企業が長く大切にしてきたいろいろなものを喪失してしまったのではないかと危惧します。

■成熟期の罠に陥った事例

  • 企業には成長のサイクルがありますが、創業期、発展期を過ぎて成熟期になると思わぬことが起きます。成熟期になり競争に晒されると、多くの企業はコスト低減にはしりますが、コスト低減の内容を吟味しないと品質不祥事の温床を作ることになります。
    企業不祥事は今に始まったことではありません。コストダウンの手段の一つにマニュアル化がありますが、他にもアウトソース化などがあります。いずれも製品が成熟化し、厳しい競争に晒され、より製品競争力を強めなければならないときに企業が採用する手段です。これら2つはあくまでもコスト低減の例であって、コストダウンにはこの他にも多くの手段があります。製品及びマーケットが成熟化してくると企業は競争優位を目指さなければならなくなりますが、この競争優位を目指す種々の手段のプロセスの中に落とし穴があります。コスト削減手段を採用する際には、この落とし穴があることに留意しておかなければなりません。2000年前後に起きた一連の事故、品質問題には、昨今の品質不祥事の原型が見られます。
  • 【動燃問題】
    1997年3月、茨城県東海村にある動力炉・核燃料事業団(動燃)のアスファルト固化処理施設で火災が発生し、37人の作業員が被ばくするという事故が起きました。企業の成熟化からくるマネジメントの現場からの遊離が問題視されました。
  • 【JCO問題】
    1999年9月,JCO東海事業所の「転換試験棟」で作業員が、省力化のためスチール・バケツの中で濃縮ウラン溶液を臨界に達するまでに混合し、310,000人におよぶ住民避難と2人の死亡という惨事を起こしました。長年の慣れからくる作業手順無視が背景にありました。
  • 【雪印問題】
    2000年6月、雪印大阪工場の食中毒事件は世間に大きな波紋を呼びました。しかし、「品質体制の強化と企業風土改革」へ第一歩を踏み出したはずの2002年1月、今度は、グループの関連会社が牛肉偽装事件を起こしました。企業ぐるみの利益至上主義とトップの社会責任認識の欠如が問題の背景にありました。
  • 【三菱ふそう問題】
    2002年1月に横浜市瀬谷区で起きた三菱ふそう製大型トラックのタイヤ脱落事故により、1人の女性が命を奪われました。日本を代表する名門企業が起こした事故隠し事件として大きな波紋を呼びましたが、その背景には「営業優先」の企業風土があったとされます。
  • 【東電問題】
    2002年8月に公表された東京電力原子力プラントの自主点検作業におけるシュラウドひび割れ不正記載問題は、一流企業の体質を問うものになると同時に、国民に原子力発電に対する不信感を与えることになりました。
  • 【関電問題】
    2004年8月、関西電力美浜原子力発電所3号機において発生した2次系配管損傷事件では5名が死亡しましたが、背景には企業風土の劣化が指摘されました。
  • 【JR西日本問題】
    2005年4月、JR西日本の福知山線のカーブでスピードを出し過ぎた電車が脱線した後、マンションに激突し107名が死亡するという大惨事が起きました。背景としてJR西日本の収益第一主義などの企業体質問題が浮上しました。

(つづく)