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品質不祥事(その13):成長の段階

昨今の品質不祥事を分析すると、日本は70年に渡って企業が長く大切にしてきたいろいろなものを喪失してしまっているのではないかと危惧します。

■成熟期の罠

  • 企業には成長、発展のサイクルがあります。それは創業期、発展期、成熟期、衰退期と一般に言われています。
  • ― 創業期段階では、企業はこれと見定めた技術を頼りに、一心不乱に企業立上げの障害を越えようと日夜活動しており、見定めた技術以外に選択肢はなく、技術もまだ完璧ではない。
  • ― 発展期を迎えると、企業は飛躍的に伸長する。試行錯誤をくり返しながら選択された主力製品は、強く逞しいものになり、効率もよく、完成度の高いものへとその姿を変えていく。また、主力製品以外にもその領域を広げていく段階である。
  • ― 成熟期は、企業が試行錯誤をくり返してきた製品が完成の域に達し、最早それ自体に磨きをかける必要はない段階である。と同時に、同業他社との生き残りをかけた厳しい競争に晒される段階でもある。企業は競争に勝つため利益率や効率を上げるための工夫を凝らし、主力製品以外のものを切り捨てる選択もいとわない。このときに企業が力を入れるのが、合理化、省力化、改善などであるが、ひとつ間違えると予期せぬ事態を生じさせることになる。それは成熟期にありがちな応用のきかない知識しか持たない従業員が引き起こすトラブルであり、品質不正なども起こり得る。
    競争力を強めるためのコスト削減で有効なものの一つに標準化がある。標準化では業務を分解し、単純化し、マニュアル化し、教育訓練する過程を踏むことになるが、このコスト削減手段においては1つの罠が待っている。それは「考えない人」を大量につくってしまうことである。マニュアル化し効率を上げること自体は当然推進していくべきものであるが、「考えない人」即ち単純作業しかできない人を大量につくってしまうと、前提条件が変わった途端に企業として対応が出来なくなる状況を生んでしまう。また、外注化、アウトソースもコスト削減には有効な手段である。人件費の安い外部に作業を移行させれば強力なコスト削減が実現できる。しかし、ここにも罠がある。人件費にばかり目がいき、肝心な作業品質に魂が入らなくなると本質的問題を内在することになり、いつかそれが噴出することになる。

企業という家が通常とは異なる環境、例えば猛烈な台風に遭遇したとします。台風経験のある住人であれば、対応に大きな間違いは起こすことはないでしょう。それでも、予測が外れると対応に手間取ることがあります。それに対して、台風経験が全く無く通常の自然環境の中でしか生活したことのない人(マニュアル化された作業しかしたことがない人)は、風の強さや雨の量に右往左往することになります。非定常時への対応を訓練されていない人にとって、異なる環境に適切に対応することは至難の技です。企業がコスト低減のために単純化しマニュアル化することは当然なことですが、それと並行してマニュアルから外れた非定常時への対応も訓練しておかなければなりません。あるいは、従来使っていた熟練の庭師をコスト低減のために安い新参庭師に切り替えることもあるでしょう。今までの庭師には木々の癖がわかっていたが、それが引き継がれなかったら庭はどのようになるでしょうか。即ち、企業内で実施していた業務をコスト低減のために一部アウトソースするときには、従来の作業者から新しい作業者にノウハウの継承が確実になされないと思わぬこと(事故、不正など)が発生します。

(つづく)