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品質不祥事(その9):品質不祥事-(序文から)総論1

「品質不正」は、重要な社会問題になってきています。過去30年余りの間、データ改ざんなどの品質不祥事が起きていましたが、これら一まとめにされていた社会問題ですが、最近はその中に単なる不注意、ヒューマンエラーとは言えないもの、すなわち、意図的に標準に反した製品・サービスを市場に出すということが行われるようになってきています。品質管理学会では、それら意図的な品質問題は、品質不祥事とは区別して「品質不正」と定義して、その発生の要因分析と対応策についてTR(技術報告書)規格(以下TR)を発行しました(2023年2月)。

「データを改ざんすることは昔からあることで今更驚かない」という見方もありますが、ひと昔前のような「ちょっとデータを直した」などという単純な不祥事とは本質的に異なるもの、自分達に都合の良いデータを作り出すソフトウエアまでを開発をするという、これまでにない確信犯的な事例が出てきたことに注目する必要があると思います。

データを作り出すソフトウエアを作るような高度な?不正事例が現れてきていますので、対応策もソフトウエア技術、AIなどを活用したものが必要であるとの意見もあります。
三菱電機の最終報告書ではフォレンジック調査を行ったとあります。
フォレンジックのもともとの意味は「法廷の」や「法医学の」といった意味ですが、IT業界ではコンピューターや記録媒体に含まれた法的証拠にかかわるデジタル的な法科学の一分野を(デジタルフォレンジック)と呼びます。主に用いられるのは、ハードディスクやUSBメモリといったメディアの中に保存されたファイルを法的な証拠として利用するといった場合を指して呼びます。具体的な作業の流れとしては、まずサーバーを押さえて完全なコピーを作成し、そのコピーに対して解析や行い、その結果を報告するというまでがデジタルフォレンジックの一連の流れであるとされています。三菱電機では300万件以上のメールを分析したと公開された調査報告書に記載しています。

過去5年位に遡って、社会的に問題になった品質不祥事をできるだけ多く収集し、事実に基づいて調べた結果、フォレンジック調査を行ったのは三菱電機だけではありませんでした。他社でもその結果をデータとして持ち寄り、品質管理的、組織的観点から不正の炙り出しをする、分析をするという事が行われていました。品質不正はヒューマンエラーから発生しており、品質管理の原則から外れた行動が出発点であるので、人の行動心理という分野固有の理論をベースに、個人から組織全体に広がっていく様相に焦点を当てた品質不正成長モデルを作り、モデルに沿った要因への対応策を考えるという方法論もありました。

なぜ不正が行われたかの要因分析には、事実の収集が不可欠ですが、問題の性質から当事者から直接事情を聴くことが困難であり、マスコミ情報、第三者委員会報告書の情報に頼らざるをえません。演繹的推論を行えば不正の成長拡大をステップに分けてそれぞれのステップにおける要因を推定することが出来ます。ここで言うステップとは、不正が組織内で拡大、成長していく過程をモデルとして組み立て時間経過に沿って区分したものを意味します。
第1ステップは個人あるいはグループによる標準の明確な不順守、違反を行う段階です。第2ステップは自分たちのルール違反行為を隠そうとする段階です。第3ステップは、客観的と見える嘘のデータを示すことで顧客、社会を誤魔化そうとする段階です。
第4ステップは存在しないデータや事実を自分たちに都合の良いものに捏造する段階です。

(つづく)