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品質不祥事(その10):品質不祥事-(序文から)総論2

われわれは急速に進化するテクノロジー革命の時代に突入している。デジタル化、AI、ブロックチェーン、生命科学、宇宙開発、エネルギー革命など科学の進歩は著しいにもかかわらず、組織の行動メカニズムに関しては驚くほどにその原理に関しての解明がなされていない。組織が固有な文化を持ち、固有であるがゆえに組織の文化は「組織の風土」と呼ばれて、その特質、特徴、いろいろな事象に対する強靭性、脆弱性などの分析がされないまま通り過ごされてきている。品質不正と組織文化とは関わりあう部分が多い。文化は国ごとに特徴があると言われるが、日本は集団主義の文化であり、個人主義の文化である欧米とは異なる特質があると以前から言われてきた。

戦後の品質管理はこの集団主義の文化をうまく組織の活動に応用し、優れたリーダーシップのもとに多くの人が知恵と労力を出し合い、それぞれの力を結集して大きな成果を上げてきた。小集団改善活動はその典型であり、現場の人が自分の仕事を改善するという欧米人には考えられない集団活動を会社あげて推進し日本国産業界を大きく躍進させた。反対に個人が集団から離れた動きをすると集団からは戻るような力が働き、それでも戻らないと村八分にされてしまうという社会文化が日本にはあると言われる。集団主義の文化には仲間と協調することが何より大切という意識が強く根底にある。

個人が集団から離れる活動を認めないという風土が物事を包み隠すという品質不正の動きにつながる。上司に遠慮する、忖度する、おかしいと思っても意見を言わない、一旦不正が芽生えると、問題だと認識しても集団の利益になると思えば多くの人がそれを止めない。
そこには個人、集団だけの便益を優先する行動に落ち込み、それが社会的な期待に背くことであるという一歩引きさがって全体を見ることが出来ない集団という特質の弱さが現れる。このようにして、目の前の個人、集団の便益だけを判断基準にするという品質不正の芽は徐々に成長していく。

品質不正は、日本の国際競争力の30年余にわたる低下という環境のもとで、恰好な低下の背景の一つとしてマスメディアで頻繁に取り上げられている。「品質不正」を引き起こす要因は何か,どんな対応策があり得るのか、われわれは実際に組織を注意深く観察して答えを見つける努力を惜しんではならない。同時に一つひとつにとらわれずに、不正の全体像を俯瞰して総合的な見地からの因果関係、論理的帰結、現実的解決に結びつく方法論の解明をすることが必要である。

品質管理は文化については専門分野の外にあると考えがちであるが、品質不正と組織文化、およびマネジメントに関しては、品質管理の視点で今まで以上に研究することが期待されている。品質管理分野では,理論を築き,実践することで理論の正しさを実証してきたが、これは多くの産業界の支援があってのことであり、豊富な現場実践により理論がなお磨き上げられ、世界のロールモデルにまでなった。

今回の組織文化と人のダイナミックス(力学)がからむ品質不正の様相を実験で解明することはもちろん不可能なことであり,また文化的な現象が関係する場面を信頼できるデータとして集めることも困難である。産業界の内部で何が起きているのか、どんなメカニズムで品質不正が起きるのか、なぜ内部で解決されずに社会に知れることになるのか、注意深い観察,組織グループへの面接,情報提供者に対する焦点を絞った質問などが極めて有効であることも忘れてはならない。

一方で、品質管理理論を築き,実践することで理論の正しさを実証してきた日本式品質管理の方法論は今日でも有効であり、一般的な論理を前提にいくつかの品質不正の事例を要素ごとに分解し、理論展開した仮説を組織内で実証するという企業自身の努力が必要であることは言うまでもない。

(つづく)