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品質マニュアルの作り方(第36回)

平林良人「品質マニュアルの作り方」(1993年)アーカイブ 第36回

付 録  品質マニュアルのモデル例

付録1 モデル例作成の背景

第4章に紹介した「標準的品質マニュアル」は大分日本的にアレンジしたものである(品質ポリシー,組織,職務分担,改善,QCサークル活動など)。それではISO9000シリーズ発祥の地である欧州ではどうなっているだろうか。その実際例を付録として紹介する。
モデル例を作成するには,欧州,特にISO 9000発祥の地である英国企業の例を幅広く調査するのが最も有効であろう。ここでは英国企業6社,スイス企業1社,イタリア企業1社,フランス企業1社の実例を知り,それらの品質マニュアルをモデル化して3例に集約して,紹介する。これら3つのモデルは,いずれも現在活動中の企業のものを参考にした実用性の高いもので,既にISO9000シリーズの認証を受けている企業の実例に近いものである。しかし,これらモデルの内容の適切性については構成事項ごとに質のばらつきがあるので,読者が参考とされる場合は留意されたい。

  • 実際例を3つのモデルに集約した理由は,数多くある品質マニュアルも,ほぼ次の3つのタイプに集約できるからである。
  • 1)概要書タイプ(A社)
    • 品質システムのエッセンスだけをISO9000シリーズ規格の条項の順序に合わせて記述したもの。ISO 9002規格の品質マニュアルで,規定要求事項に対する記述のボリュームは約23ページである。あまり詳細には触れず,品質システム全体が概要として把握できるようになっている。外部へ自社を紹介するには便利なタイプである。
  • 2)詳述タイプ(B社)
    • 品質システム全体を記述するため,部門マニュアルや標準書にまで言及し,一部その中身にまで触れている。ただ必ずしもISO9000シリーズ規格の順序になっていないが,ISO 9001規格の品質マニュアルを意図しており,60~80ページにもなっている。これ1冊あれば会社の品質システムの全体が理解でき,社内で実用的に活用していけるタイプである。
  • 3)折衷タイプ(C社)
    • 上記2例の中間的なタイプである。英国では現時点(1993年5月現在)までに約20,000社の企業がISO9000シリーズの認証を受けており,その業界は電気,機械を筆頭に自動車,車両,建設,鉄鋼,繊維,プラスチック, ゴム,エネルギー,鉱業,セメント,タイル,サービスと,ありとあらゆる業界に及んでおり,認証会社も25社存在する。したがって,品質マニュアルも約20,000例存在するわけで,各社各様,その企業の実態を反映したものになっている。品質システムがその企業固有のものである以上,品質マニュアルも当然,その企業独特のものになっていなければならないからである。しかし,いかに各社各様とはいえ,品質システムを要領よく簡潔に書き表そうとすると,自ずからその内容に類似性が出てくる。
  • ここではその類似性を抜き出し,次の要領で3つのタイプに集約したモデル例としてまとめてみた。
  • 1)モデル設定条件
    • ① 認証されているISO 9000モデルは何か
    • ② 業種,扱っている製品は何か
    • ③ 規模は人的にどれくらいか
  • 2)品質マニュアルの体裁,特長
    • 品質マニュアルのボリューム(頁数),表紙ならびに文書管理に関する記述,署名の有無,その他の品質マニュアルを構成している要素についての特長。
  • 3)品質マニュアルの記述例
    • 品質マニュアルをその1ページ目から項目ごとに順序を追って,その内容を簡単な説明つきで概要を掲載する。

付録2 モデルA社(概要書タイプ)

  • 1)モデルA社の設定条件
    • スイス企業で,マイコン制御の民生製品の完成品メーカーである。グループとして欧州の各国に工場をもっているが,スイス工場は人員がおよそ300人で,欧州各地からのサブアッセンブル品をここに集め最終組立工程を担当している。1990年にISO 9002の認証を受けている。
  • 2)モデルA社の品質マニユアルの体裁,特長
    • ① 総ページ数が35ページとコンパクトにまとまっている。
    • ② 会社のロゴあるいは製品認証マークも入っておらず,非常にプレーンで簡潔な形態をとっている。
    • ③ 表紙には「このマニュアルはA社の資産であり,何人もQA課長の許可なくコピーをしてはならない」旨が記されており,加えてConfidential (機密)とControlled (管理下)と刻印された赤いスタンプが押されている。
    • ④ 各ページに会社名(グループ名)と工場名が冒頭中央に印刷されている。
    • ⑤ マニュアルの管理・非管理コピーの区分を明確にしている。
    •  ・管理コピー:コピー配布後も改訂配布の管理をしていくコピー。
    •  ・非管理コピー:コピー配布後は,改訂配布の管理をしないコピー。
    • ⑥ 目次は,General (一般),改訂,会社紹介とつづき,品質システム構成事項へ至っている。
    • ⑦ マニュアルの配布先について,この配布範囲を規定し,管理コピーの配布先一覧を明示している。
    • ⑧ マニュアルの改訂については,改訂の場合の差し替え方法,破棄方法,Revision番号の付け方などについて述べている。そして改訂表によって,各項目がいつ改訂されたかの履歴が追えるようになっている。
  • 3)モデルA社の品質マニユアル
    • ① 表紙(略)
      • 表紙には以下の項目が載っている。ページ数,版数,発行日,文書番号,社名,文書名(品質マニュアル),コピーNo.,管理・非管理区分,コピー発行先,コピー発行日,コピー発行者,承認者,会社の版権所有権。
    • ② 目次(略)
      • 1.0 一般(表紙,目次,配布)
      • 2.0 改訂について
      • 3.0 会社紹介
      • 4.0 品質システム構成事項(ISO 9002に準拠)
    • ③ 配布先と改訂について(略)
      • マニュアルコピーの配布先一覧と,マニュアルの改訂方法について述べている。
    • ④ 以下,ISO 9002の要求事項に従ってモデルA社の品質システムの概要を記述する。