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人生100年時代の到来|ISO情報テクノファ

ISO審査員及びISO内部監査員に経産省の白書を参考にした製造業における有用な情報をお届けします。

■人生100年時代の到来

(学び直しの推進)
人工知能などの技術の進展に伴う産業構造の変化や、人生100 年時代ともいわれる長寿命化社会の到来、新型コロナウイルス感染症の感染拡大など、これからの我が国は大きな変化に直面することとなる。このような時代に対応するためには、学校を卒業した後も、キャリアチェンジやキャリアアップのために大学や専門学校などで、新たな知識や技能、教養を身に付けることができるよう社会人の学び直しの抜本的拡充や、社会教育施設などにおける生涯学習の推進、スポーツを通じた健康増進などにより、生涯現役社会の実現に取り組む必要がある。
(1)社会人の学び直しのための実践的な教育プログラムの充実・学習環境の整備
①実践的なリカレントプログラムの充実社会人が大学などで学び直しを行うに当たっては、休日や夜間などの開講時間の配慮や、学費の負担に対する経済的な支援の問題などがあること、社会人のニーズにあった実践的なリカレントプログラムが少ないこと及び企業等の評価や支援環境が十分でないことなどが課題として挙げられており、大学などにおける社会人の学びを一層推進する必要がある。このことを踏まえ、文部科学省では、多様なニーズに対応する教育機会の拡充を図り、社会人の学びを推進するために、大学・専修学校等における実践的なプログラムの開発・拡充に取り組んでいる。
具体的には、大学において、IT 技術者を主な対象とした短期の実践的な学び直しプログラムの開発・実施に取り組んでいるほか、2019 年度より、実践的なプログラムを実施するために不可欠な実務家教員育成の質・量の充実を図るため、実務家教員育成に関するプログラムの開発・実施など、産学共同による人材育成システムを構築する取組を実施している。

放送大学においては、社会的に関心の高いテーマの番組放送や、キャリアアップに資する実践的な公開講座のインターネット配信・認証を行い、「リカレント教育」の拠点として、一層高度で効果的な学びの機会を全国へ提供できるよう取組を進めており、数理・データサイエンス・AI 人材育成に関するリテラシーレベルの講座を2021 年4月に開講した。また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、雇用構造の転換が進展する中で、非正規雇用労働者・失業者、希望する就職ができていない若者等の支援として、全国の大学等を中心とした連携体制において、即効性があり、かつ質の高いリカレントプログラムの開発を行い、円滑な就職・転職を促す「就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業」を2021 年度に実施した。さらに、機械やAI では代替できない、創造性・感性・デザイン性・企画力など、社会人が新たな価値を創造する力を育成することが求められている社会背景を踏まえ、大学等と企業が連携してプログラム開発・実施を行う「大学等における価値創造人材育成拠点の形成事業」を2021 年度より実施している。
加えて、専修学校におけるリカレント教育機能の強化に向けて、短期的な学びを中心とする分野横断型のリカレント教育プログラムの開発や、e ラーニングを活用した講座の開催手法の実証、リカレント教育の実施運営体制の検証に取り組んでいるほか、2020 年度からは新たに非正規雇用者などのキャリアアップを目的とした産学連携によるプログラムの開発・実証を行うなど、リカレント教育の実践モデルの形成に取り組んでいる。
このほか、多様なニーズに対応する教育機会の拡充を進めるため、大学などにおける社会人や企業のニーズに応じた実践的かつ専門的なプログラムを「職業実践力育成プログラム(BP)」として文部科学大臣が認定している(2022 年3 月現在で357 課程を認定)。

同様に、専修学校においても社会人が受講しやすい工夫や企業などとの連携がされた実践的・専門的なプログラムを「キャリア形成促進プログラム」として文部科学大臣が認定している(2022 年3月現在で13 校、17 課程を認定)。これらを踏まえ、更なる社会人向け短期プログラムの開発を促進している。

(新たな価値創造を先導する人材の育成)
東京工業大学は、社会人を対象とするプログラムである「Technology Creatives Program(通称テックリ)」を、多摩美術大学、一橋大学と連携して2021 年度から開始した。このプログラムは文部科学省の「大学等における価値創造人材育成拠点の形成事業」に選定され、いままでの枠を超えたいと考える若手のエンジニアとデザイナーを受講生として募集し、デザイン経営を支える高度デザイン人材へと育成していく。Society 5.0 の到来や人口減少、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大など変化が激しく不確実性の高まる時代において、DX 等成長分野の人材育成には、専門性深化を目指す旧来型の教育とは異なる方法論が必要である。既存の思考や組織の規範に縛られすぎず、自由に個性を発揮しながら付加価値の高い仕事を実行する「尖った」人材には、機械やAI では代替できない創造性・感性・デザイン性・企画力・パーパス設定力などの能力が求められている。テックリでは、新たな気づきから社会実装の可能性に至る4段階のカリキュラム体系を用意している。テクノロジーの東京工業大学、クリエイティブの多摩美術大学、ビジネスの一橋大学、という日本を代表する実績と教育経験を持つ3大学がタッグを組むことで、受講生たちは常に多様なステイクホルダーに見守られ、全方位多視点のフィードバックを浴びることになる。これにより受講生たちは、これまでの職能を生かし自ら創造性を高めるとともに、エンジニアはクリエイティブとの協働能力を身につけ、デザイナーはテクノロジーとの協働能力を身につけ、新しい価値を製品・サービスあるいは社会システムの形で実装できる人材へと育っていく。2022 年度から毎年、約7か月間(8月から翌3月)のプログラムを、大岡山キャンパス、すずかけ台キャンパス、田町キャンパス(以上東京工業大学)及び上野毛キャンパス、東京ミッドタウン・デザインハブTUB(以上多摩美術大学)等を拠点にして実施予定である。募集方法等の詳細は東京工業大学のウェブサイトで随時案内する。「日本を塗りかえよう。」を合言葉に、テックリは、新たな価値創造を実現する人材を育成し、人材を編むように束ねることで新しい価値を生み出す泉のような共同体を作り上げていく。

(職業実践力育成プログラム「Open IoT 教育プログラム」)
東洋大学は、情報通信技術の急速な進展は、IoT(Internet of Things) と呼ばれるような、あらゆるモノにコンピュータを埋め込み、それらを連携して私たちの生活を支える技術を実現した。「Open IoT 教育プログラム」は、このようなIoT の技術を身につけたい社会人の方を対象とした学び直しのためのプログラムである。IoT 技術の習得のためには、組込みシステム開発の技術を中心に、それらをネットワーク化しクラウドで連携する技術や、収集したデータを活用する技術など、高度かつ広範な学習が必要になる。このプログラムでは、約半年間の学習を通じて、このような分野の知識とスキルを体系的に身につけることができる。Open IoT 教育プログラムは、東洋大学情報連携学部(INIAD)を中心に、複数の大学やIoT 分野を支える企業が多数入会するトロンフォーラムと連携して運営されている。文部科学省事業である「成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成(enPiT-Pro)」の採択を受けて、2018 年度より開講されている。現在は、文部科学省職業実践力育成プログラム(BP)及び厚生労働省専門実践教育訓練講座にも指定されている。
Open IoT 教育プログラムは、多忙な社会人が効率的に学べるように、当初より座学講義を中心に、オンライン教材も活用していた。さらに、2020 年度からは新型コロナウイルス感染症の感染拡大以降のニューノーマル時代を見据え、オンラインでの教育体制を強化している。これまで遠隔受講が難しかった、組込みシステム開発の実技演習についても、受講期間中は受講者に開発ボードであるIoT-Engine を貸出し、対面とオンラインが選択可能なハイブリッド形式で開講している。IoT を教育するために、どうしてもINIAD のIoT 環境が必要となる一部の集中講義を除き、ほとんどの講義は遠隔でオンラインで受講することが可能な体制をとっている。このような取組みの結果、長野や長崎など、対面中心のこれまでのプログラムでは受講が難しい地域の企業の社会人もプログラムの受講が可能になり、好評を博している。

社会人の学び直しのための学習環境の整備社会人が学び直しを行うに当たっては、開講時間の配慮や学習に関する情報を得る機会の拡充が大きな課題として挙げられており、誰もが必要な情報を得て、時間や場所を選ばずにリカレント教育(学び直し)を受けられる機会を整備することが重要である。文部科学省においては、開講時間の配慮などについて職業実践力育成プログラムの認定やプログラム開発を委託等する際の要件のひとつとしている。また、社会人が各大学・専修学校などにおける社会人向けプログラムの開設状況や、学びを支援する各種制度に関する情報に効果的・効率的にアクセスできるよう、情報発信ポータルサイト「マナパス(学びのパスポート)」の整備に取り組んでいる。このほか、2020 年度からは、多様な年代の女性の社会参画を推進するため、関係機関との連携の下、キャリアアップやキャリアチェンジなどに向けた意識醸成や相談体制の充実を含め、学習プログラムの開発など、女性の多様なチャレンジを総合的に支援するモデルの開発などを行っている。

(マナパス―社会人の学びの情報アクセス改善に向けた実証研究)
文部科学省では、社会人や企業などの学び直しニーズを整理し、各大学・専修学校などが開設する社会人向けのプログラムや社会人の学びを応援する各種制度の情報に効果的・効率的にアクセスすることができる機会を充実するため、2020 年度から「マナパス:社会人の大学等での学びを応援するサイト」を本格的に運用開始し、2021 年度は大学・専門学校等が行う約5,000 件のリカレント講座の情報を掲載した。マナパスでは分野や地域・通学・通信の別等に応じて多様な講座の検索が可能なことに加え、実際に学び直しを行った社会人をロールモデルとして紹介し、大学等での学びやその成果のイメージを具体的に持ってもらうよう、修了生インタビューを掲載している。2021年度は新たに学習履歴を可視化し、受講生の学修意欲を喚起するためのマイページ機能を追加した。今後も社会において必要となる知識やスキルなどをテーマごとに取り上げ、対応するリカレント講座を紹介するための特集ページの充実を図るとともに、学習に関する情報を蓄積・分析し、性別・年代・職種等のユーザーの属性に応じたコンテンツ作成・情報発信の取り組みを進めていく。

(ものづくりの理解を深めるための生涯学習)
①ものづくりに関する科学技術の理解の促進国立研究開発法人科学技術振興機構が運営する「日本科学未来館」では、先端の科学技術を分かりやすく紹介する展示の制作や解説、講演、イベントの企画・実施などを通して、研究者と国民の交流を図っている。常設展示「未来をつくる」では、脳研究と人工知能(AI)研究の融合によってどのようなビジョン(=理想の未来像)を切り拓くことができるのか、最先端研究から「知性」についての新しい視点を獲得し、脳の大きな可能性を共に探っていく「ビジョナリーラボ」などの展示を通じ、Society 5.0 が実現した社会で新たな価値観を問い直し、参加者が科学技術と社会の関係を考える機会を提供している。また、制作した展示や得られた成果を全国の科学館に展開することで、全国的な科学技術コミュニケーション活動の活性化に寄与している。例えば、日本科学未来館が企画製作した超伝導等の実験キットを全国の科学館に貸し出している。さらに、日本科学未来館が提供するワークショップは、第一線の研究者や企業等と科学コミュニケーターが一緒に作り上げており、「プログラミングで探る自動運転車のしくみ」などのプログラムでは、ワークショップと対話を通じて、先端科学技術への理解を深めるとともに、子供にものづくりの面白さを伝えるなどの取組を実施している。
②公民館・図書館・博物館などにおける取組
地域の人々にとって最も身近な学習や交流の場である公民館や博物館などの社会教育施設では、ものづくりに関する取組を一層充実することが期待されている。公民館では、地域の自然素材などを活用した親子参加型の工作教室や、高齢者と子供が一緒にものづくりを行うなどの講座が開催されている。このような機会を通じて子供たちがものを作る楽しさの過程を学ぶことにより、ものづくりへの意欲を高めるとともに、地域の子供や住民同士の交流を深めることができ、地域の活性化にも資する取組となっている。図書館では、技術や企業情報、伝統工芸、地域産業に関する資料など、ものづくりに関する情報を含む様々な資料の収集や保存、貸出、利用者の求めに応じた資料提供や紹介、情報の提示などを行うレファレンスサービスなどの充実を図っており、「地域の知の拠点」として住民にとって利用しやすく、身近な施設となるための環境整備やサービスの充実に努めている。
博物館では、実物、模型、図表、映像などの資料の収集・保管・調査・研究・展示を行っており、日本の伝統的なものづくりを後世に伝える役割も担っている。また、ものづくりを支える人材の育成に資するため、子供たちに対して、博物館資料に関係した工作教室などの「ものづくり教室」を開催し、その楽しさを体験し、身近に感じることができるような取組も積極的に行われている。

(匠の技を伝えるミュージアムの試み)
竹中大工道具館は、竹中工務店創立85 周年の記念事業として1984 年に開館した企業博物館である。日本で唯一の大工道具を専門とした博物館として、日本建築を支えてきた大工道具の収集・研究・展示を通して、建築文化を未来に伝えていくため、また木造建築文化や匠の技の素晴らしさをより多くの人に知っていただくために活動をしている。現在収蔵品の点数は約30,000 点に上るが、そのうち約2,300 点が映像資料や復元品、模型類である。道具というものは使われなくなると、それがどのように使用されたのか、あるいはどのように製作されたのかが分からなくなることが往々にしてある。そのため、当館では大工道具という実物資料だけでなく、その使用方法や製造方法を映像で記録・収集することを心掛けている。当館では実物資料の展示に加えて、職人が伝統技法で製作した「模型展示」や、その製作工程などを記録した「映像展示」といったツールを通して無形の技を紹介している。「匠の技」が無形である以上、完成品として展示される模型のみならず、その製作工程自体も学術資料・技術記録として重要な意味を持つ。伝統的な技術を保持する職人であっても、日々の現場で伝統的な工具や技法を使用することはごく限られるので、博物館資料の製作という機会は職人にとっても伝統的な材料、道具、技法を用いる希少な場のひとつとなっているのである。映像資料の多くは現在、当館のビデオライブラリーにて公開されている。貴重な映像も多く、国内外の職人が来館して開館から閉館まで映像を視聴している姿も時折みられる。2020 年3月の新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言による臨時休館以降、当館でも来館者が大幅に減少したこともあり、来館せずとも当館を楽しんでいただける方法のひとつとして、以前から要望の多かった映像資料の公開をYouTube の竹中大工道具館チャンネルにて行っていくことになった。過去に制作した映像作品のうち著作権がクリアになっているものや企画展に合わせて新規に制作した動画、常設展示を職員が解説した動画など、2022 年2月末現在、約80 本の動画を公開している。海外からのアクセスやコメントも多く、人気の動画には英語(一部中国語・韓国語)
のサブタイトルをつけるようにしている。このように積極的に博物館資料を公開していくことは、これまで当館に足を運ぶことが難しかった人たちにも匠の技の素晴らしさ、大工道具の奥深さを知ってもらうきっかけとなるのではないかと期待している。

実用の現場で姿を消してしまった伝統的な道具や工法は、特別な体験イベントや学術的再現実験、博物館展示に関わる場でなければ実施することが難しい。そのような機会を作って、技術を記録・保存そして公開していくことも当館の重要な使命となっている。
竹中大工道具館YouTube チャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCfzA-aM_s7u1X0Go9DAjrJA

(出典)経済産業省 2022年版ものづくり白書
 ・https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2022/index.html

(つづく)Y.H