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品質不祥事(その12):集団の力

昨今の品質不祥事を分析すると、日本は70年に渡って企業が長く大切にしてきたいろいろなものを喪失してしまっているのではないかと危惧します。

■日本社会の成熟化

企業は外部環境から大いに影響を受けます。企業風土を論じるには企業を取り巻く外部環境の変化にも注目しなければなりません。直近20年の変化としては、生まれながらにスマホに触れる世代の登場、ハングリー精神の後退、終身雇用制の崩壊、均質社会から格差社会への移行など上げれば多くの変化が起きています。更にいえば、少子化に伴う日本の労働者人口の減少、外国人労働者問題や、ITの進化を始めとする科学技術の進歩等による産業構造の変化は、産業界に多くの問題を突き付け、以前には想像できないほどの改革を迫っています。

高度成長期の集団としての団結が大いなる力を発揮した時代(労働組合の時代)から、個の重要性が叫ばれ、多様性が増し、雇用の流動性が増していき、個の尊重・個の管理が重要となった現代では社会における倫理の概念にも変化が見られると共に、人材の質についても当然のことながら大きな変化が見られます。20年昔ならば隠しきれた企業内不正がもはや内部からの指摘で社会に明らかになっていく時代となりました。

加えて、グローバル規模に社会が開かれた現在、各企業は日本国内のことだけを考えていれば良いわけでもなく、ましてや、日本の行政当局の指示・意向にだけ従っていれば良いわけではありません。国が民間を政策で誘導するような時代は当の昔に無くなり、いまや民間の動きを国が適切にキャッチし、政策を決めるという逆転現象が起きています。

  • 日本には古来より次のような独特な風土がありました。
  • ①全員で力を合わせる(四季折々のピーク時には村総出で事に当たらなければならなかった農耕民族の伝統による)。
  • ②全国民があるレベル以上の均質な教育を受けている(二宮尊徳、江戸時代の寺小屋以来の伝統による)。
  • ③終身雇用制度が発展してきた(でっち奉公等に代表される日本的徒弟制度による。表面的には最近は崩壊したと言われるが、はたしてそれで良いのか)。
  • ④あうんの呼吸で仕事ができる(古代から同一民族としてのコミュニケーションのよさによる)。
  • ⑤ねばり強い(自然災害多発にもかかわらず、再興してきた歴史、伝統による)。
  • ⑥職業的道徳感がある(武士道―義、勇、仁、礼、誠、名誉、忠義―、茶道、花道等一つの道を突き詰める伝統による)。
  • ⑦柔軟性がある(原理主義の一神教とは異なり、多神教である、即ち自然を神とした八百万の神の伝統による)。
  • ⑧高密度、高効率である(狭隘な日本列島に億を超える国民が効率よく住んでいることによる)

しかし、以上のような風土が徐々に日本社会から無くなってきていると言えないでしょうか。日本社会の成熟化に伴い昔からの良き風土が希薄になってきた結果、集団で一つのことを成し遂げるという美風が無くなってきています。ある意味集団の力から個の力に企業の重点が移ってきているといってよいでしょう。

(つづく)